ウンチを見て毎日の健康状態をチェックしましょう
職場での健康診断や人間ドックあるいは市区町村による住民健診などをもう受けられた方、これから受ける方もいらっしゃると思います。一般に健康診断では、事前に便の検査キットが送られてきますが、この便の検査は何を調べているかご存じでしょうか。これは、便潜血検査といって、大腸がん検診として広く用いられている検査です。目に見えない微量の血液(潜血)が便に混じっていないかを調べています。付属のスティックを用いて便の表面をまんべんなくこすって適量を採取します。
普段、あまり自分のウンチを見ることはないかもしれませんが、この時だけは、しっかりと自分のウンチと向き合いますね。実は、ウンチには身体の調子を知るヒントが色々と隠されているのです。ウンチの形や色、においから今の自分の体調を理解して、それらに変化がみられた時には、体調に何か変化はないか、病気を早期に発見するためのセルフチェクポイントとして活用できます。
トイレでウンチを水で流す前に、自分のウンチの状態をしっかり見るようにしましょう。
目次
◎ 理想的な健康な便とは
理想的な健康な便とは、どのような便でしょうか。
一般に、健康な便とは、以下のような便だと考えて問題ないと思います。
・形は、柔らかいバナナ状、あるいはとぐろを巻くように途切れることなく、そして便がいきまなくてもスルッと出る
・においは、便臭はあってもにおいは少なく、あまり臭くはない
・色は、黄土色~茶色
・量は、バナナ1本~2本程度
・重さは、トイレの水に浮く
このような性状を満たしていれば、健康な便といえます。
◎ ウンチで分かる体調の変化と便のチェックポイント
下痢や便秘は、感覚で分かりますが、色や形については、意識して見なければ分かりません。
病気を早期に発見するきっかけになることもありますので、自分のウンチの状態を見る習慣をつけておきましょう。
チェックするポイントは、大きく次の3つです。
① 便の硬さ
② 便のにおい
③ 便の色
私達が食べた食べ物は、胃で消化され小腸で栄養分が吸収された後、大腸で体に必要な水分が吸収され、体に不要な食べ物のカスやはがれた粘膜組織、水分等を排出する過程でウンチが作られます。
便の硬さ
コロコロ状の便 |
ウサギの糞のようなコロコロとした便が出る場合は、大腸のどこかがけいれんしている「けいれん性便秘*」が考えられます。 ストレスなどの影響で腸がけいれん気味ですので、のんびり散歩などをしてストレスを解消しましょう。 |
太くて硬い便 |
便が太くて硬い場合は、大腸の運動が低下している「しかん性便秘**」が考えられます。 水分が少ないカチカチの便が出てくる人は、食事の内容を見直して腸内環境を整え、適度な運動を取り入れることが必要です。 |
硬くて断片的な便 |
たびたび便意をこらえることによって、直腸の感受性が低下して起こる「直腸性便秘***」が考えられます。 |
普通便 |
バナナ状または半練り状でにおいが少なく、するりと出るソフトなもの。 |
細い便 |
細い便は途中で切れやすく、食物繊維が不足していることが考えられます。 |
ドロ状便 水様便 |
下痢の状態です。 水様性の場合、粘液、血液、膿などが混じると細菌性赤痢や伝染性下痢などの感染性腸炎や、炎症性腸疾患などが考えられます。 |
このように、便の状態から大腸のぜんどう運動の調子なども推測することができます。
MEMO
*「けいれん性便秘」とは、腸の一部がけいれんを起こすことで大腸の動きが不規則になって起こる便秘です。精神的ストレスがきっかけとなることが多くあります。
**「しかん性便秘」とは、大腸の収縮と弛緩(しかん)をくり返す、ぜんどう運動が何らかの原因で弱くなると便がなかなか直腸へ送られず、大腸内を通過するのに時間がかかる便秘です。
***「直腸性便秘」とは、強くいきまないと便が出ない、排便してもスッキリせず、残便感があるのが特徴です。直腸まで便が送られてきていても便意を感じにくくなっていて、直腸の便を押し出す力が低下していて便をスムーズに出せなくなる便秘です。
便のにおい
食べた物や背景にある病気によって影響されますが、においに影響するのが腸内細菌です。食生活が肉などの動物性たんぱく質が中心であったり、脂っこいものに偏ったりすると悪玉菌が増えて嫌なにおいが強くなり、善玉菌が増えるとにおいは抑えられると考えられています。
においの対策としては、野菜や穀物などの食物繊維を多く含む食品を食べて腸内環境を整えることが大切です。
野菜や豆類、キノコ、海藻、イモ類、コメなどの穀物などには食物繊維が多く含まれていて、便のもとにもなり腸内細菌のエサにもなるのです。善玉菌を多く含む食品として「納豆」や「ヨーグルト」等の発酵食品を食事やデザートに取り入れることもお勧めです。
また、運動不足の時や強いストレスを感じている時、過敏性腸症候群などの消化器系の病気の時にも、においが強くなります。
規則正しい生活習慣で生活リズムを整え、適度な運動で体を動かして筋力をつけること、食事の内容を見直して食物繊維や水分をしっかりとることなどにより、大腸を刺激して排便を促す効果が期待できます。
その結果、便秘を解消することでおならのにおいを軽減することが可能になるのです。
なお、食事等で腸内環境を整えられない時は、整腸薬を使ってみるのも良いでしょう。
便の色
健康な便は黄土色~茶色です。
腸内に便が留まっている時間が長くなるほど、色は濃くなります。
身体の状態によってさまざまな色に変化します。下記の色はあくまでも目安ですが、注意が必要な色に似た便が出たときは医療機関への受診を考えてください。
黄土色~茶色 |
黄色 |
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茶~茶褐色 |
濃褐色 |
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黒色:タール便ともいいます。 |
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赤色:出血した場所が肛門に近いほど新鮮血を呈します。 |
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灰白色 |
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緑色:母乳を飲んでいる赤ちゃんの便や緑色野菜を大量に食べる人の便は、クロロフィルを多く含むため緑色になります。 |
あまり神経質になる必要はありませんが、「いつもと何か違う」というサインを見落とさない程度に、便の様子を確認する習慣を身につけましょう。
◎ 便秘解消のための5つのコツ
便秘にならないためには、次の5つの取組みがポイントです。普段から日常生活の中で、以下のことに気をつけましょう。
バランスの良い食生活をする
便秘の改善に食生活を整えることは大切です。1日3食を守り、特に朝食は必ずとるようにしましょう。からっぽの胃に食べ物が入って胃がふくらむと、その刺激が自律神経を介して大腸に伝わり、大腸のぜんどう運動が起こりやすくなります。それが刺激となって反射的に便意が起こるようになるのです。
食材では、野菜など食物繊維の多い食品をバランスよく食事に取り入れましょう。ゴボウやニンジン、レンコン、キャベツなどには多くの食物繊維が含まれています。また、腸の働きを助けてくれる善玉菌を含む発酵食品(ヨーグルト、みそ、漬物、乳酸菌飲料など)も積極的にとりましょう。なお、極端な食事制限によるダイエットは、便秘を招く原因になるので控えましょう。
積極的に水分をとる
体内の水分が不足すると、便が固くなって便秘になりやすくなります。こまめに水分をとることを忘れないようにしましょう。
接客等のお仕事をされている方や高齢の方には、トイレを気にして水分を控える方が多くみられます。便秘解消には食べ物に含まれる水分のほかに1日に1.5~2Lの水分をとることが大切です。また、朝起きたら直ぐにコップ一杯の水や白湯を飲むことは、便秘解消に効果があります。胃に水分が入ることによって胃・結腸反射が起こって、ぜんどう運動が起こりやすくなり、強い便意につながりやすくなるのです。
排便の習慣をつける
便意があってもトイレに行かずに我慢してしまうと、次第に便意自体を感じなくなってしまいます。スムーズな排便習慣を定着させるためにも、便意があったら速やかにトイレに行きましょう。
一方、便意がないのにトイレで長時間便座に座り続けることは、肛門の周囲がうっ血して痔の原因にもなりますので注意してください。便意がなければ一度トイレから出て、軽い体操やお腹のマッサージなどを行ってみるとよいでしょう。便意が起こったら、そのタイミングで再びトイレに行きましょう。
適度な運動をする
運動不足は腸の働きを鈍らせて、便を出すための腹筋力を低下させます。外出を控える、デスクワークで一日中座りっぱなしになりがちな人は、生活の中にウォーキングなどの全身運動や腹筋運動、軽く体をひねった動作を取り入れるなど、積極的に体を動かしましょう。さらに、マッサージやストレッチなどもいっしょに取り入れることで、腸の動きをサポートするので効果的です。
体を冷やさない
寒い冬の時期はもちろんのこと、夏場のクーラーや冷たい飲み物の取り過ぎは血行を悪化させ、腸の働きを鈍らせてしまう原因となります。腰回りを冷やさない服装を心がけたりして、体を冷やさないようにしましょう。
毎日の排便は、腸の健康を測るバロメーターです。体の中に便がたまった状態が続くと、肌に吹出物ができたり、体が重くなって倦怠感を感じるようになったりするなど、不調のサインが現れてくることが考えられます。たかが便秘と思わず、生活リズムを整えて毎日の排便を習慣化していきましょう。
詳しくは、次のコラムも参考にしてみてください。
便秘薬「複方毒掃丸」とお腹の調子を整える「毒掃丸整腸薬」
の製品案内です。
【参考】
厚生労働省生活習慣予防のための健康情報サイト>e-ヘルスネット>便秘と食習慣
厚生労働省生活習慣予防のための健康情報サイト>e-ヘルスネット>食物繊維の必要性と健康
O’Donnell LJD, et al. Br Med J 1990; 300: 439-440
Longstreth GF, et al. Gastroenterology 2006; 130: 1480-1491
最新 消化性潰瘍要覧(監修:松尾 裕、出版:R&Dプランニング)
慢性便秘症診療ガイドライン2017(南江堂)
株式会社山崎帝国堂 薬剤師。
スポーツファーマシスト/日本薬剤師会、千葉県薬剤師会の会員。
中堅製薬企業にて医薬品開発に従事し、消化性潰瘍治療薬を2品目上市。
現在、専門学術領域は日本微量元素学会、日本微量栄養素学会、日本栄養・食糧学会を中心に活動。 日本微量元素学会の代議員を務める。