生薬(しょうやく)という言葉は、ご存じでしょうか?生薬とは、天然の植物・動物の薬効部位を使った薬のこと。たとえば、毒掃丸は冒頭の写真にある6種類の植物性生薬を原料にした便秘薬です。また、漢方薬や多くの家庭薬が、生薬を原料としています。今回は、そんな生薬の魅力と、利用・研究の歴史を簡単にご紹介したいと思います。
目次
生薬の魅力は、特定の薬効成分のみを抽出または化学合成した一般的な医薬品原料と違って、天然の植物・動物の薬効部位をそのまま活用しているところにあります。
例えば、植物の場合、葉・花・つぼみ・茎・樹皮・枝・根など草木によって利用する部分が異なりますが、薬効部位を乾燥させたり粉にしたりして、まるごと薬の原料としています。興味深いことに、生薬になる植物は多くの場合、何種類もの薬効成分を含んでおり、薬効部位をそのまま活用にすることで、すべての薬効成分を体に摂り入れることができます。そして、生薬を使った伝統薬の多くは、複数の生薬を組み合わせています。いくつもの薬効を持つ生薬を更にブレンドすることで、調子の悪い箇所だけではなく、体全体の健康バランスを整えることを期待しているのです。
そして、こうした魅力や長所を裏打ちしているのが、生薬の利用と研究の長い歴史です。
現代の日本で使われている生薬は、中国と日本の長い歴史のなかで選び抜かれたものです。
よく薬食同源(または医食同源)と言いますが、薬と食べ物は、その根源はもともと同じです。文明化以前、人類の生活においてはまず食があり、食べることが生きることそのものでした。やがて、一部の食べ物が体に良いことが分かると、天然物を用いた医行為が行われるようになり、生薬の歴史が始まりました。(多くの古代文明で、生薬を活用した医療が現れ、呪術と並行して用いられたことは本ブログでもご紹介したとおりです)それ以来、20世紀に入って化学療法が確立されるまで、薬といえば生薬やその抽出物でした。
先史日本においては、縄文時代の遺跡から、今も生薬として使われるキハダの樹皮が発見されていると言われていますが、生薬を使っていたことを示す考古学的な痕跡はそれだけのようです。本邦で本格的に生薬が使われるようになるのは、中国から医学の知識がもたらされる飛鳥時代以降のことです。
一方、中国では日本より遥かに古くから、生薬の知識は洗練された体系になっていました。中国に於ける最も古い生薬の文献は『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』という書物ですが、これは後漢の時代(西暦25~220年)に書かれ、365種類の生薬が体系的に収載されています。ちなみに、この書名の最初にある「神農」とは、古代中国の伝説上の皇帝で、草木の薬効を調べるために自ら草根木皮を嘗め、最後には植物の毒にあたって死にましたが、神農が選び伝えた生薬により多くの民が救われたとされています。これは、薬の歴史の裏側には犠牲もあったことが分かりやすく示された説話だと思います。その後も幾星霜、中国では独自の医学の発展とともに、生薬の知識が蓄積されていきます。明代に李時珍が著した『本草綱目(ほんぞうこうもく)』は特に有名です。
これら中国の生薬関係の文献は、日本には飛鳥時代に朝鮮半島経由でもたらされ、その内容が徐々に日本社会に受容されていったようです。その後も中国との往来を通じて時折新たな文献ももたらされるなか、平安時代には和名を併記した日本版生薬本も現れます注1。江戸時代に入ると、生薬学は一層盛んになり、中国書の翻訳・解釈にとどまらず、日本に自生する植物・動物などの研究に発展しました。『養生訓』で有名な学者・貝原益軒が1709年に刊行した『大和本草(やまとほんぞう)』(下の写真)は、独自の分類法で日本にある生薬を中心にまとめたことで高く評価されています。
日本で使われている生薬の研究は、このように、文献が残っているものだけで2000年の歴史があります。また現代では、生薬の科学的な成分研究や、生薬を使った製剤の医学薬学研究が行われ、知見は日々深まっています。
貝原益軒『大和本草』(国立科学博物館の展示)wikipedia ©Momotarou2012
なお、生薬の魅力と長所をそのまま生かし、長い歴史から得られる知見を実際の薬の効能効果につなげていくためには、処方と製法について工夫が必要です。次回の「生薬の話② 自然の力を医薬品に活かすために」では、これらの点についてお話させて頂きたいと思います。
生薬と漢方薬の違い
生薬とは、天然の植物・動物の薬効部位を使った薬のことです。1つの生薬が単体で用いられることもあれば、複数の生薬を組み合わせたり、科学合成薬と組み合わせて使われたりします。組み合わせたり加工する場合には、個別の生薬は、薬の「原料」と位置づけられます。一方、漢方薬は、中国伝来の漢方医学に基づいて処方される医薬品を指しますが、多くの場合、複数の生薬を組み合わせて作ります。つまり、生薬は漢方薬を構成する原料です。生薬は、漢方薬の他にも、市販の家庭薬の原料としても広く活用されています(関連リンク:「生薬の話② 自然の力を医薬品に活かすために」)。
生薬の便秘薬・毒掃丸には、選び抜かれた生薬が6種類含まれており、それぞれの作用が一つになって、便秘や便秘に伴う吹出物、肌あれなどの症状を改善します。
大腸の働きを活発にして自然なお通じを促してくれます。
英名:Rhubarb
学名:RHEI RHIZOMA
産地:中国(青海、甘粛、陜西、四川など)の高地。主に野生品。
国産大黄は、主として北海道で生産。
薬用部位:根茎。
性状:特異なにおいがあり、味はわずかに渋く、苦い
作用:瀉下作用、抗菌作用、抗ウイルス作用等
関連記事:『便秘と「デトックス」②医薬の歴史にみるデトックスの系譜と、毒掃丸』
瀉下作用により、自然なお通じを促してくれます。
英名:Rose Fruit
学名:ROSAE FRUCTUS
産地:中国、北朝鮮。
薬用部位: ノイバラの偽果又は果実。
性状:わずかににおいがあり、花床は甘くて酸味がある。
堅果は初め粘液ようで、後に渋くて苦く、刺激性がある。
作用:瀉下作用。
おなかの痛みの緩和や痔等の痛みに効果を発揮します。
英名:Glycyrrhiza
学名:GLYCYRRHIZAE RADIX
産地:中国(内蒙古、甘粛など)、ロシア、アフガニスタン、イラン、パキスタン。
薬用部位:根およびストロン(匍匐茎)。
性状:弱いにおいがあり、味は甘い。
作用:解毒作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、鎮咳作用等。
天然の甘味料、グリチルリチン酸の原料。
食欲不振、腹部膨満や腸内異常醗酵に効果があります。
英名:Magnolia Bark
学名:MAGNOLIAE CORTEX
産地:長野、岐阜、富山、鹿児島県、北海道などの野生品。
中国(四川、湖北など)。
薬用部位:ホオノキの樹皮。
性状:弱いにおいがあり、味は苦い。
作用:健胃・整腸作用等。
関連リンク:「薬樹ホオノキの植樹」
便秘に伴う 吹出物、肌あれに効果を発揮します。
英名:Smilax Rhizome
学名:SMILACIS RHIZOMA
産地:中国の広東省が最も産量多く、他では湖南省など。
薬用部位:塊茎。
性状:わずかににおいがあり、味はほとんどない。
作用:排膿・解毒作用。
関連記事:『便秘と「デトックス」②医薬の歴史にみるデトックスの系譜と、毒掃丸』
血液の循環を良くして、のぼせ、頭重を和らげてくれます。
英名:Cnidium Rhizome
学名:CNIDII RHIZOMA
産地:北海道が主。その他岩手、群馬、富山、新潟など。
薬用部位:根茎。
性状:特異なにおいがあり、味はわずかに苦い。
作用:補血、強壮、鎮静、鎮痛作用。
婦人薬に多く配合されています。
以上、生薬の魅力と、利用・研究の歴史を簡単にご紹介しました。「生薬の話② 自然の力を医薬品に活かすために」も併せてご覧ください。
(最終更新日:2022年10月9日)
注1:参考文献 真柳誠「中国本草と日本の受容 」『日本版 中国本草図録』巻9、p218-229, 中央公論社 1993年 (webサイト中国本草と日本の受容 (umin.ac.jp) 2021/10/16 17:34参照)
写真説明:毒掃丸シリーズの便秘薬に使われている生薬の一覧です。
ひとこと
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