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  • 便秘といえば、若い女性の悩みというイメージがあるかもしれませんが、実は、多くのシニア世代(以下、65歳以上を指して高齢者と呼ばせていただきます)が便秘に悩んでいらっしゃいます。ご本人やそのご家族にとって、便秘は深刻な悩みです。また、今はまだ若くて便秘でない方も、いずれ高齢になり、ご自分が便秘に悩まれるかもしれません。今回は、そんな高齢者の便秘について正しく理解するために、実態と原因を概観していきたいと思います。また、便秘が高齢者にもたらす影響や、取りうる対策についても探ってみたいと思います。  

    ■高齢者の便秘の状況

      わが国では、高齢者とは65歳以上の人を指し、65~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼んでいます。便秘は、老化にともなう「老年症候群」の症状の1つにも数えられているくらいで、高齢者の便秘は、老化現象の表れの1つでもあるのです。便秘に悩む方は、前期高齢者の段階から目に見えて増えはじめ、後期高齢者になると更に増えていきます。   下にあるのは、厚生労働省の国民生活基礎調査という国の基幹統計のデータから作成した、性・年齢別の便秘有訴者数(便秘に悩んでいると答えた人)のグラフです。便秘は、若いうちは圧倒的に女性に多い悩みなのですが、中年期以降男性の便秘も増えてきます。そして、前期高齢期を含む70代には男女ともにグンと伸び、性差もほとんどなくなります。後期高齢期の80代になると、更に多くの男女が便秘に悩まれるようになります。     ご高齢の方にとって、便秘は非常に身近な悩みです。当社は、地域貢献として、地元柏市を中心に、シニアクラブ(老人会)の会合などの場で便秘講座を何度も開催していますが、会場の反応などから、便秘に悩んでいらっしゃる高齢者の割合は過半数に達していると実感しています。   関連リンク:「ニッポン人の便秘事情を俯瞰する」  

    ■高齢者の便秘の原因

      なぜ、高齢者にはこんなに便秘が多いのでしょうか。高齢になってからの便秘が増えるのは、体の衰えそのものだけが原因ではありません。いくつかの生理機能の衰えに加え、生活の変化、病気や薬の影響など、人によって異なるいくつもの原因が複雑にからみあっています。  

    (1)腸の動きが悪くなる

      高齢者は、大腸の動きが悪くなっており、内容物が通過するのに時間がかかり、そのため便秘になりやすいです。   食事で口から入った食べ物は、胃や小腸で消化吸収されたあとで大腸に到達します。大腸は、自律神経と反射神経の働きによって、無意識のうちに蠕動運動(ぜんどううんどう)を起こすことで、内容物を肛門の方向に時間をかけて送り出していきます。デンマークからの報告によると、高齢者16人(平均81歳)と若者16人(平均24歳)の大腸通過時間を調べたところ、高齢者は平均66時間、若者は平均39時間で、1.7倍の差があったといいます注1。大腸には、水分を吸収する働きがあるので、通過時間が長くなると、便がカチコチに硬くなり、便秘になってしまうのです。こうした便秘は、大腸通過遅延型の便秘、あるいは弛緩性便秘と呼ばれます。   関連リンク:「便秘の種類と原因」/「便秘チェックリスト」   このように加齢で腸の動きが悪くなる理由としては、腸管の運動に関係する神経細胞の数やバランスが変化していることが原因と考えられています注2。ヒトの体には、加齢とともに様々な変化が現れますが、それは大腸も例外ではないのです。   加齢による大腸の変化としては、高齢者の大腸は、若年者より長くなっているという統計もあります注3、便秘や大腸通過時間と長さの関係はよくわかっていません。   関連リンク:「日本人の腸について 日本人の大腸は長いの?形が変なの?」  

    (2)排便機能が衰える

      高齢者は、大腸の運搬能力だけでなく、便意を感じてから排便するまでの機能も衰えており、これも便秘が増える原因に挙げられます。   大腸を通って運ばれてきた便は、最後に直腸と呼ばれる肛門の真上のあたりに到着します。便がやってきて直腸の内側の壁に圧力がかかる(内圧が上る)と、人は直腸にあるセンサーから脳に信号が伝わり、そのことで便意を感じます。便意があると、人はトイレを探し、腹筋力などを使って排便を行います。高齢になると、この一連の機能に問題が生じやすくなります。   まず、加齢により、直腸の内圧の上昇を脳に伝える神経の感度が下がりやすくなります。そのため、便が肛門近くまで運ばれてきても、すぐにトイレに行きたいという気持ちにならなくなってしまいます。海外からの報告では、便意を感じ始める内圧、便意が切迫してくる内圧、痛みを感じ始める内圧のいずれも、高齢者は若者よりも高かった~つまり便意を感じにくい~ということです注4。   トイレでいきむ力も、高齢になると不足してきます。そもそも全身の筋肉量と筋力は、加齢とともに失われてきます。これをサルコペニアと呼びますが、腹筋は筋力が失われやすい部位の一つです。腹筋はいきむときに腹圧を高めるために使いますから、ここが弱ると排便がしにくくなってしまいます。   関連リンク:「便秘と便意」  

    (3)生活習慣の変化

      高齢者の生活習慣や生活環境も、便秘を引き起こす原因になっています。若い人の便秘にも言えることですが、便秘は生活習慣と深い関係があります。年を取ると、体の様々な衰えから生活習慣や生活環境が変わってきて、それが便秘をひどくしてしまいます。  

    ・食事量の減少

      高齢者は、食欲減退や、嚥下機能の低下によって、食事の量が減りがちです。食事の量が減ると、よほど気を付けないと、食物繊維の摂取量も減ってしまいます。食物繊維は野菜だけでなく、豆類や果物や穀物など、様々な食材に含まれているからです。   食物繊維は、大腸にとって大切です。不足すると、腸内の善玉菌が減ることで腸内環境が悪くなり、結果として、おならやうんちが臭くなったり、大腸の運動に使われるエネルギーの供給が減ったりします。また、食物繊維には便のカサを増す役割があるので、便量が減ることで、大腸の蠕動運動が起きにくくなったり、便意を感じにくくなったりして便秘になったりします。  

    高齢者の腸内環境 70歳くらいから、腸内環境も高齢者型に変化し始めます。ビフィズス菌などの善玉菌が減少し、大腸菌などの悪玉菌が増加してしまうのです。その原因としては、健康状態の変化(例:咀嚼・嚥下・消化機能の低下)、低栄養、お薬の影響、施設入居などの生活環境の変化が考えらえています。こうした腸内環境の変化が、健康状態に直接悪い影響を与えているかどうかまではわかっていません注5。とはいえ、中には若々しい腸内環境を維持する人たちもいて、個人差が大きいようです。腸の中も、いつまでも若くいたいものですね。

      関連リンク:「うんちと便秘」/「野菜と便秘の話」/「腸内細菌と、健康・便秘」/「便秘によい食べ物」  

    ・水分摂取量の減少

      高齢者は、喉の渇きを感じにくいうえに、体の中の水分量も少なく、脱水症状になりやすいです。体内の水分が不足した場合、尿が減るばかりでなく、便が硬くなって出にくくなってしまいます。飲料摂取が500cc以下だと便秘になりやすいことと、便秘の人が脱水傾向にある場合には水分を多くとると便秘が改善することが分かっています注6。   関連リンク:「便秘によい飲み物」  

    ・運動量の減少

      運動量の低下は、直接的に便秘の原因になるだけでなく、筋力の減退や、食欲の減少を通じて、衰弱や便秘悪化の悪循環をつくりだします。特に高齢者の場合は、生活の場が施設に移るような状態では、運動量が更に減少し、便秘を悪化させてしまいます。   運動~特に有酸素運動~が便秘を改善することは多くの研究でわかっていますし、運動量が少ない高齢者は便秘しやすいことも報告があります注7。また、便秘の高齢者は自宅暮らし→老人ホーム暮らし→老人病院(geriatric hospital)の順に増えていくことや、1日500m以上歩かないようになると便秘のリスクが高まることも指摘されています注8。  

    (4)他の疾患や、飲んでいる薬の影響

      そして、高齢者の便秘の原因で見逃せないのが、他の疾患で引き起こされる便秘や、飲んでいるお薬の副作用でおきる便秘です。   他の疾患で起きる便秘は、二次性便秘と呼ばれています。例えば、大腸がんなどの腫瘍が邪魔をして便の通りが悪くなり、便秘になることがあります。50歳を過ぎて急に便秘になり、便が黒い(出血がある証拠)ような時にはお医者様に相談しましょう。また、うつ病、心気症、糖尿病(自律神経障害を伴うもの)、甲状腺機能低下症など、便秘を引き起こす病気があります注9。記事冒頭で示した性年齢別のグラフで、男性の便秘が50代以降増えているのは、こうした疾患を持つ人が増えてくるからかもしれません(女性の場合は、閉経により、黄体ホルモンが原因の便秘が減ることで、増加が見えにくくなっていると考えられます)。   また、飲んでいるお薬の副作用で起きる便秘は、薬剤性便秘とも呼ばれています。副作用で便秘になるお薬は、下の表のように結構多くあります。高齢者は沢山のお薬を服用しているので、薬剤性の便秘になりやすいです。処方薬で便秘になっていると感じたら、医師に相談してみてください。選択肢がある場合は、便秘になりにくいお薬を処方してくれるかもしれません。   便秘の原因になる主な薬剤
    薬の種類使われる病気の種類
    抗コリン薬消化器疾患、うつ病、パーキンソン病など
    向精神薬精神疾患、うつ病
    抗パーキンソン病薬パーキンソン病
    オピオイドがん
    化学療法薬がん
    循環器用薬高血圧、不整脈など
    利尿薬高血圧、腎疾患など
    制酸薬消化器疾患
    鉄剤貧血
    吸着薬、陰イオン交換樹脂脂質異常症
    制吐薬がん、悪心・嘔吐
    止痢薬下痢、消化器疾患
    日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 編, 慢性便秘症診療ガイドライン2017, 南江堂, 2017: p.33 より改変作成  

    ■心と体への便秘の影響

      高齢者の便秘の影響は、生活の質を下げてしまうことと、余命への影響の双方が懸念されています。   便秘は、身体的・精神的なQOL(生活の質)を低下させ、日常生活の活動に支障をきたすことがわかっています。高齢者においても、便秘の症状とQOLに相関があることが報告されています注10。高齢者の場合、便秘が食欲不振や更なる活動量の減少に結びつくことで、老化を速めてしまうことも懸念されます。   また、近年では、便秘が寿命を縮めるリスクが注目されています。アメリカで行われた4,000人規模の追跡調査では、慢性便秘でない被験者の10年後の生存率が平均で85%だったのに対し、慢性便秘の被験者は73%でした。つまり慢性便秘の患者は、12%も生存率が低かったのです注11。他にも、排便頻度が少ないほうが心血管疾患や脳卒中を起こしやすいという研究も複数あり、現在では高齢者の便秘は、軽視すべきでないと考えられています。  

    注意!すぐに受診が必要なケース 高齢者の便秘は、稀に重篤化するケースがあります。腸の中で大量の便がカチカチに固まってしまうと、腸がふさがってしまい(腸閉塞)、敗血症腸穿孔腹膜炎などの重篤な状態をもたらすことがあります。例えば腸穿孔といって腸に穴が開いてしまうと、人工肛門になったり、命を落としてしまうこともあります。こうしたケースは稀ですが、突発的で急な激しい腹痛がある場合や、吐き気・嘔吐を伴う場合は、早急に受診するようにしてください。

      関連リンク:「便秘と寿命」/「便秘と腹痛

    ■高齢者の便秘対策

      高齢者の便秘は、その程度や原因が、人によって異なります。高齢者の医療・介護全般に共通することですが、老化の進行状況には個人差が大きいです。そして、高齢者は複数の病気を持ち、医療機関を掛け持ちされていたりもします。そのため、誰にとっても安心・安全で、誰にでも効果がみられるような健康アドバイスをするのは簡単ではありません。これからご紹介する便秘対策も、無理のない範囲で行っていただき、疑問が生じたら周囲の専門家に確認することが大切です。弊社のお客様相談窓口でも、ご相談を受け付けております。   ◎生活に関するアドバイス 〇活動量を増やし、長めの距離を歩き、できるだけ筋肉量が減少しない様に心がける。 国が掲げた指針「健康日本21」では、70歳以上の高齢者の、1日の歩数の目標は、男性6,700歩、女性5,900歩です。 〇あまり歩けない人は、腹式呼吸で深呼吸を心がけましょう。また、お腹を「の」の字にマッサージしてもらったりするのも効果が期待できます。 〇食事の量をしっかりととり、食物繊維を以前より減らさないようにする。 〇水分を1日2.5ℓを目標にしっかり摂る。食事から摂る分を除くと、飲み物で1.2ℓ飲むのが目安注12   なによりも、便秘を改善するために継続的に生活を改善するという思いを持つことが大切だと思います。   関連リンク:「便秘によい食べ物」/「便秘とマッサージ」/「便秘によい飲み物」   ◎お薬や医療に関するアドバイス 〇大腸の動きが悪いことによる便秘には、大腸を動かすタイプの市販のお薬もあります。当社の複方毒掃丸もそうしたタイプなので後程ご紹介します。 〇直腸に原因がある便秘には、浣腸が有効な場合もあります。市販のものはドラッグストアでも手に入りますので店頭の薬剤師さんに相談してみましょう。 〇市販薬の効き目が良くない場合や、腹痛がひどい場合は、お医者様に相談してみましょう。   ご自宅で暮らせるような方や、重い便秘でない方には、毒掃丸はもちろんおすすめですが、困ったら医療(介護)関係者へ相談しましょう。そして、並行して、可能な範囲で生活改善にも取り組むようにしてください。 (最終更新日:2023年1月11日)   ◇    ◇    ◇    ◇   複方毒掃丸は、6種類の生薬が自然に近いお通じを促す便秘薬です。小さな丸剤なのでのむ量を調節しやすく、配合されているダイオウが、腸の動きを促して、便秘を改善します。関連リンク:複方毒掃丸ブランドサイトおすすめの服用方法複方毒掃丸サンプルお申込受付フォーム 
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    関連リンク:「便秘薬をのむ時に大切なこと」   便秘薬を飲むほどでもないという場合は、整腸薬で腸内環境を整えてあげるのもおすすめです。毒掃丸整腸薬は、乳酸菌と消化酵素と4種類の生薬を配合した、シナモンのような爽やかな香りがする、のみやすい整腸薬です。ぜひ一度お試しください。関連リンク:毒掃丸整腸薬の製品案内毒掃丸整腸薬の無料サンプルお申し込みフォーム
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      注1:Jan L. Madsen, Jesper Graff, Effects of ageing on gastrointestinal motor function, Age and Ageing, 2004 March ; Volume 33, Issue 2 : p.154–159 注2:日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 編, 慢性便秘症診療ガイドライン2017, 南江堂, 2017, p.31.  注3:永田 浩一ほか 日本人とアメリカ人の大腸の長さは違うのか?―大腸 3D-CT(仮想内視鏡)による 1,300 名の検討 日本消化器内視鏡学会雑誌 55(3), 435-444, 2013-03-20 や、山崎震一ほか 日本人大腸の長 さと内径に関す るX線 学的検討 日本大腸肛 門病会誌 47 : 31-39, 1994 注4:Lagier E, et al. Influence of age on rectal tone and sensitivity to distension in healthy subjects. Neurogastroenterol Motil. 1999 Apr ; 11(2) : p101-7.   注5: 新井 万里ほか,  腸内フローラと老化,  日本老年医学会雑誌  2016;  53 (4 ) : p318~325. 注6:吉良いずみ 便秘ケアとしての水分摂取のエビデンスに関する統合的文献レビュー, 日本看護技術学会誌 2013;12(2):p33-42. 注7:高野正太,  慢性便秘症の診療  Ⅴ.慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法, 日本大腸肛門病会誌  2019 ; 72:p.621-7. 注8:Kinnunen O. Study of constipation in a geriatric hospital, day hospital, old people’s home and at home. Aging (Milano). 1991 Jun;3(2):161-70. 注9:日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 編, 前掲書  p28-29から、頻度が高いとされているものを抜粋。 注10:Rao SS, Seaton K, et al. Psychological profiles and quality of life differ between patients with dyssynergia and those with slow transit constipation. J Psychosom Res. 2007 Oct ; 63(4) : p441-9.   注11:Joseph Y Chang, et al. Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community. Am J Gastroenterol. 2010 Apr;105(4):822-32.  注11:必要な水分量については、次のサイトを参考にしました。厚生労働省 「健康のため水を飲もう」推進運動  2022年6月6日アクセス.   ひとこと 最後までお読みいただきありがとうございます。記事がお役に立ちましたら、SNSでもご共有いただけますと幸いです! 毒掃丸のお買い求めは全国のドラッグストア・通販サイトで。見つからない場合は「毒掃丸をください」と申し出てください。こちら(SHOPどくそうがん)でも販売しております→ショップどくそうがん | 便秘薬の毒掃丸 山崎帝國堂のネットショップ (dokusougan.jp)

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  • 便秘と寿命

    2021.06.01
    便秘に悩みながら毎日の生活を送る人はとても多くいますが、普通は数日から長くても1週間くらいで排便があり、つらい思いをしたとしても、ほとんどの場合、生命に影響が及ぶような事態にはなりません注1.注2。   また、お医者様にかかるような場合も、便秘はほぼ内科的に治療が可能で比較的予後が良く、手術を必要とする症例は少ないと考えられています注3 しかしながら、長期的にみると、慢性の便秘には死亡リスクの増加があり、寿命に影響をあたえているのではないかという気になる指摘があります。今回は、便秘の死亡リスクにまつわる2つの研究をご紹介します。また、すぐに受診をしたほうがよい、命に係わる危険な便秘についても簡単に触れたいと思います。  

    ■胃腸障害と生存率の関係についてのアメリカの研究

      アメリカ・ミネソタ州の住民を対象行われた、あるコホート研究では、機能性胃腸障害(慢性便秘、消化不良、過敏性腸症候群、腹痛、慢性下痢)をもっている約4,000人の成人を追跡調査し、それぞれの障害の有無が10年後の生存率にどの程度影響するかを統計的に解析しました。解析の過程では、他の重大な疾患が原因でそれらの機能性胃腸障害がおきたことが分かった被験者は除外していますから、例えば癌が原因で便秘になっていたなどというケースは含まれません。 結果は、興味深いものでした。それら機能性胃腸障害のうち、慢性便秘だけが生存率に影響を及ぼしていることが示唆されたのです。慢性便秘でない被験者の10年後の生存率が平均で85%だったのに対し、慢性便秘の被験者は73%で、12%の差がありました(消化不良、過敏性腸症候群、腹痛、慢性下痢については生存率の大きな低下は見られませんでした)。年齢・性別・喫煙・飲酒・教育レベル・併存疾患について統計的に調整をしたあとでも、慢性便秘の人々の生存率は低いままでした。なお、慢性便秘の被験者に大腸など消化管の癌が増えたということは、ありませんでした。 論文はこちら→   Joseph Y Chang, et al. Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community. Am J Gastroenterol. 2010 Apr;105(4):822-32. 著者らは、慢性便秘がなぜ10年後の生存率に影響を及ぼしたのかは不明で、さらなる調査が必要だと述べています。  

    ■排便頻度と心血管疾患死の関係についての日本の研究

      宮崎県で国民健康保険加入者を対象に行われたコホート研究では、排便頻度と循環器系疾患による死亡との関係について検証が行われました。約45,000名を対象にし、排便頻度で被験者を「1日1回以上」「2~3日に1回」「4日に1回以下」3グループに分け、各グループの13年間の心血管疾患(循環器系疾患、脳血管疾患、虚血性心疾患)による死亡リスクを解析しました。 その結果、排便頻度が少ないグループほど、心血管疾患による死亡が多いことが分かったのです。「2~3日に1回」、「4日に1回以下」の各グループの全体的な心血管疾患死のリスクは「1日1回以上」グループと比較して有意に高くいものでした。死亡するリスクの大きさを相対的に示すハザード比は「2~3日に1回」が1.21、「4日に1回以下」が1.39でした。 論文はこちら→   Kenji Honkura, et al. Defecation frequency and cardiovascular disease mortality in Japan: The Ohsaki cohort study. Atherosclerosis. 2016 Mar;246:251-6.   関連リンク:「便秘と高血圧症」  

    ■便秘だと、本当にリスクが高まるのか?

      この2つの研究を通してわかるのは、便秘と生存率の相関関係であり、その因果関係についてはよくわからないという点には注意が必要だと思います。 とはいえ、アメリカの報告の方では生存率に関係しそうな諸要素(性・年齢・既往症・喫煙や飲酒の習慣など)の影響を除外する調整を行っていますし、また日本の研究では同様の調整に加え、歩行時間や野菜や果物の摂取傾向についてまでも調整しています。この2つの調査をもってはっきりした関係があると決めつけることはできなくても、「リスクが高まる恐れはある」と考えるに越したことはないかもしれません。 例えば、便秘が大腸癌発生のリスクになるかどうかについては、いまだによく分かっていないのですが、これについては「Yes」を示唆する研究結果と「No」を示唆する研究結果がどちらも沢山存在しています。注3 一方で、死亡リスクについては、便秘が死亡リスクを高めるという研究はこれ以外にもありますが、便秘が寿命を延ばすという研究結果は、少なくとも私たちは、まだ見たことがありません。  

    注意!危険な便秘について 便秘にも、稀に重篤化するケースがあります。腸の中で大量の便がカチカチに固まってしまうと、腸がふさがってしまい(腸閉塞)、敗血症・腸穿孔・腹膜炎などの重篤な状態をもたらすことがあります。例えば腸穿孔といって腸に穴が開いてしまうと、人工肛門になったり、命を落としてしまうこともあります。こうしたケースは稀ですが、便秘が続くうえに、激しい腹痛や吐き気・嘔吐がある場合は、早急に受診するようにしてください。

    関連リンク:ブログ記事「便秘と腹痛」/「便秘と便意

    ■まずは腸活

      やはり、できるだけ便秘解消や便秘予防につとめたほうが良いでしょう。ただし、長期的なリスクを下げることを目的に市販の便秘薬を飲むのは、薬には副作用があることを無視した誤った発想だと思います。一番良くないのは、便秘であることを気にすることもなく乱れた生活を続け、強い便秘薬をたくさん飲んで出すような日々を送ることです。また、便秘であることを気にして憂鬱になっていては、毎日がつまらないものになってしまいます。   寿命を延ばすためにウォーキングをしている画像   まずは腸活にとりくみ、「快食快便」をゴールに楽しく便秘解消や便秘予防に取り組むのが、一番よいと思います。本ブログでは、腸活について様々な記事がありますので、ぜひご参照ください。また、市販の便秘薬を使うとすれば、生活改善などで便が出なかったときに、頓服用に賢く使うのが理想です。できるだけ服用量を調節しやすい便秘薬を選び、自然に近いお通じを目指しましょう。そして、思い悩んだ時には、薬剤師(当社のお客様相談窓口も薬剤師・登録販売者常駐です)や医師に相談するようにしてください。   関連リンク:ブログ記事「便秘薬をのむ時に大切なこと」 (最終更新日:2022年12月15日)   注1:きわめて重度の便秘は、最終的に腸管が破れてしまったり、敗血症をおこしてしまって死に至る場合があります。 注2:普通の便秘にみえても、急に便秘症になった場合や血便がみられる場合は、他の重大な疾患が隠れていることもありますので、気になる方はお医者様に診てもらうようにしてください。 注3:参考文献:日本消化器病学会関連研究会ほか編『慢性便秘診療ガイドライン 2017』南江堂 2017年    ひとこと 最後までお読みいただきありがとうございます。記事がお役に立ちましたら、SNSでもご共有いただけますと幸いです! 毒掃丸のお買い求めは全国のドラッグストア・通販サイトで。 見つからない場合は「毒掃丸をください」と申し出てください。 こちら(SHOPどくそうがん)でも販売しております→ショップどくそうがん | 便秘薬の毒掃丸 山崎帝國堂のネットショップ (dokusougan.jp)

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  • 便秘とはなにかー 今回は、便秘の定義についていくつかの視点から整理してみたいと思います。普段暮らしていくうえで、便秘の定義が分からなくても、全く困ることはないのですが、いざ詳しく知るために便秘をきちんと定義しようとすると、実はこれが結構難しいのです。

    ■日本語としての便秘

    皆さまは、便秘というコトバを最初に知ったのがいつ頃だったか、覚えていますでしょうか?きっと、幼い頃、生活の中で記憶もはっきりしていないうちに覚えた方が多いはずです。3歳か4歳の頃に あなた:「うんちがでない!」 おとな:「あら、便秘なのね…」こんなやり取りを通じて、便秘という日本語を知ったのではないかと思います。 便秘というコトバの日本語の意味は、「広辞苑」によると、  
    大便が通じないでとどこおること。便通の回数または量が異常に減少すること。 「広辞苑」第4版 新村 出編 岩波書店 1991年
      だそうです。一見、簡潔です。ただ、「回数や量が異常に減少する」というのは、今一つ具体的ではありません。この語意だと、私たちは、幼少期から今までの自らの経験や周囲の人の様子から、回数や量が正常か異常かを自己判断するしかなくなってしまいます。これでは、広くみんなで比較することができません。    

    ■国際的な診断基準

      しかし一方で、客観的に定義するのも実は結構難儀なことなのです。 研究者の世界では、便秘について(機能性便秘という一般的な便秘)、国際的な診断基準があります。Rome基準という、消化管障害全体の国際基準体系のなかに含まれており、その基準は次の通りになります(太字筆者)。  
    RomeⅣ基準による機能性便秘の定義 1 .次の 2 項目以上を満たすこと. a .排便の 1/4(25%)以上のいきみがあること. b .排便の 1/4(25%)以上に兎糞状,硬便(ブリストル便形状スケール 1 ~ 2 )を認める. c .排便の 1/4(25%)以上に残便感がある. d .排便の 1/4(25%)以上に直腸肛門の閉塞感がある. e .排便の 1/4(25%)以上に用手的な操作(例えば摘便,骨盤底の圧迫)が必要である. f .自発的排便が週 3 回未満 2 .下剤を使用せずに軟便になることがほとんどない. 3 .過敏性腸症候群の診断基準を満たさない 日本大腸肛門病会誌 第 72 巻第 10 号 2019 年 10 月・尾﨑隼人ほか
      なお、1.bのブリストルスケールについては、下の図(これは当社作成)をご参照ください。スケール1~2は、下図の便の絵の一番上と、上から2番目です。   ブリストルスケール   さて、この国際基準、どう思われましたでしょうか。専門家向けですから、細かいものであるのは仕方がないかもしれません。そして、具体的に定義されていますが、普通の人からみると構造がやや難解かと思います。そして何より、自発的排便が週3回未満というのが、一般人の感覚からいうと結構厳しい基準に見えないでしょうか。    

    ■一般の人が、便秘を自覚するとき

      一般の人たちの便秘についての感じ方は、この国際基準と異なっていることが、実際に指摘されています。   本ブログでは以前、「ニッポン人の便秘事情を俯瞰する」と題したエントリーで、日本人の28%が便秘だと自己認識しているということを示した論文をご紹介しました。   Tamura A, et al. : Prevalence and Self-recognition of Chronic Constipation: Results of an Internet Survey. J Neurogastroenterol Motil. 2016; 22(4): 677-84)   この中で著者らは、この28%の便秘と自己認識している人たちの1週間の排便回数の平均は、週4.2回だったと述べています。   また、ある海外の研究で、531人の患者と100人の専門家に便秘の定義について尋ねたところ、患者と専門家で答えが大きく違ったそうです。患者のうち50%が、医学的定義と違う状態を便秘だと言っており、27%が2日おき(週3.5回)以下の排便頻度を便秘だと答えたそうです。   M J Herz, et al.: Constipation: a different entity for patients and doctors.  Fam Pract1996 Apr;13(2):156-9.   一般の人は、専門家が医学上の必要性をもとに考えるよりも、便が出ない状態に、あせり・不快感・不自由を感じやすいようです。もし、本人が悩み苦しんでいるのに、専門家の便秘の定義から漏れているとしたら… 確かに何か本末転倒な気がします。  

    ■日本のお医者さまの最新の定義

      では、日本のお医者様は今、どう考えているのでしょうか。本ブログでも時々参照している2017年の慢性便秘症診療ガイドラインでは、次のように定義されています(太字筆者)。  
    本来対外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態 日本消化器病学会関連研究会ほか編『慢性便秘診療ガイドライン 2017』南江堂 2017年
      この定義では、便秘とは症状名や疾患名ではなく、状態を表すコトバであるとしており、定義の中に排便頻度の目安はありません。このガイドラインが出される前には、前述の国際基準や「3日以上排便がない」等の基準が定義として広く使われてきましたので、結局一周まわって広辞苑のコトバの説明に近いところに戻ってきた気がしない訳ではありません。でも、患者各個人の感じ方にも幅があることを考えると、仕方のないことなのかもしれません。   少々複雑な説明で恐縮ですが、同ガイドラインでは、国際基準RomeⅣをふまえた独自の診断基準を示しながら、その診断基準から外れていても、ガイドラインで定義したような便秘で日常生活に支障がでていたら便秘症と診断して治療することが望ましいとしています。定義を一般的にし、診療現場で柔軟に対応しようという考え方なのですね。   ◇◇◇   結局、現時点では、本人が排便できず苦しんでいれば便秘と言え、それで日常生活に支障をきたすようならば治療が望ましいということになっています。逆の言い方をすれば、2日か3日排便がなくても、不具合を感じなければ直ちに治療が必要とはされません。   便秘の定義は、簡潔かつ患者目線にしようとすると、どうしてもあやふやさが残るようです。ここは、一般の人は日常生活に支障がない限りあまり細かく考えずに、昨日までの自分と比較しながら、腸活で快食快便を目指していくのもよいように思います。   そして、思い悩んだ時には、薬剤師(当社のお客様相談窓口も薬剤師・登録販売者常駐です)や医師に相談するようにしてください。   写真:大勢の人が悩む便秘。便秘を定義することは難しいですが、市販薬メーカーとして、きめ細かくニーズに寄り添って参りたいと思います。江戸城本丸跡から大手町を望む写真にそんな思いを重ねてみました。   ひとこと 最後までお読みいただきありがとうございます。記事がお役に立ちましたら、SNSでもご共有いただけますと幸いです! 毒掃丸のお買い求めは全国のドラッグストア・通販サイトで。 見つからない場合は「毒掃丸をください」と申し出てください。 こちら(SHOPどくそうがん)でも販売しております→ショップどくそうがん | 便秘薬の毒掃丸 山崎帝國堂のネットショップ (dokusougan.jp)

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  • 腸は、生きていくのに欠かせない重要な臓器ですが、体内にあるので、その形態についてはなかなかイメージができないものです。何しろ、自分の腸も他人の腸も、この目で見ることができません。背丈のように他人や他国の人たちと直感的に比較することも困難です。そのため、時折間違った風説がひろまることがありますし、学術的にもまだまだ系統立てて整理ができていないこともあります。   今回は、腸の中でも便秘との関係が深い大腸に関して、その長さと形態の2つに関するトピックスを取り上げてみたいと思います。  

    ■日本人の大腸の長さは、欧米人と変わらない

      皆さまは、「日本人は、肉食の欧米人より腸が長いので便秘になりやすい」という話を耳にしたことはないでしょうか? 最近は、この話は出典不明の都市伝説の類であると考えられていて、医師や製薬会社のかかわるTV、書物、Webでこの話が出ることはなくなりましたが、しばらく前まではかなり広範囲に信じられていたようです。ちなみに、ここでいう腸の長さは、小腸の長さではなく、大腸の長さのことです。大腸は食べ物のカスから水分を吸収する役割があり、通過に時間がかかると便が硬くなったり便秘になったりします。   「日本人は腸が長いから便秘になりやすい」という考えには2つ前提があります。1つは、日本人の腸が長いことで、もう1つは、腸が長いと便秘しやすいことです。    

    (1)大腸の長さの国際比較

      まずは、大腸の長さについてみてみましょう。大腸の長さのを人種間・日米間で比較した、都市伝説を否定するような2つの研究論文を、ご紹介します。   1.B. P. Saunders et al, A peroperative comparison of Western and Oriental colonic anatomy and mesenteric attachments Int J Colorectal Dis. 1995;10(4):216-21  

    まずは、海外の研究で、国籍ではなく人種で比較したものです。東洋人114人と西洋人(白人)115人の結腸(直腸以外の大腸)の長さを開腹して比較したところ、東洋人(中央値= 111 cm、範囲78-161 cm)と西洋人(中央値= 114 cm、範囲68-159 cm)の被験者を比較して、結腸の全長に有意差はありませんでした。

    2.永田 浩一ほか 日本人とアメリカ人の大腸の長さは違うのか?―大腸 3D-CT(仮想内視鏡)による 1,300 名の検討 日本消化器内視鏡学会雑誌 55(3), 435-444, 2013-03-20

    こちらは日本の研究で、ズバリ日本人650人とアメリカ人650人(白人83%、黒人13%ほか)の大腸の長さを仮想内視鏡を用いて比較したものです。大腸全体の長さの平均は、日本人とアメリカ人でそれぞれ154.7cm、158.2cmで、実質的な違いはないと結論づけています。

    結局、最近の研究をみると、私たちと欧米人の間で、人種でみても国籍でみても、大腸の長さに大きな差はないようです。

    蛇足ですが、小腸の長さは5mから7mと言われていますので、そもそも大腸は、だいぶ短いということも、実感いただけるのではないでしょうか。なお、小腸の長さの国際比較については、日本語・英語ともに文献を見つけることができませんでした。

    なお、本記事でご紹介した論旨と逆に「日本人の腸は長い」と指摘する方の論文もあるにはあるようで、海外サイトMedium.com上にあるAndy Raskin氏の’Are Japanese Intestines Longeer?’というコラムによるとフィラデルフィア医科大学の歴史医学図書館にある、19世紀に書かれたドイツ人医師の論文が、26人の日本人死体の腸管の長さ(数値からみて小腸を含む腸管全体か?)を測ったところヨーロッパ人の典型よりも20%長いと指摘しているそうです。その論文の内容については、確認できていませんが、先に紹介した論文が1,300人からデータをとっている一方で、こちらは26人ですので、そこだけ見てもちょっと頼りなく感じます。とはいえ興味深く、ドイツ医師の論文の方も、いつか読んでもみたいものです。もしかしたら、日本人の腸が長いのではないかという仮説は、古くからあったのかもしれません。

       

    (2)大腸の長さと便秘の関係

      では、続いて大腸が長いと便秘しやすかどうか、見てみましょう。実は、こちらはやや歯切れが悪く、大腸の長さと便秘の関係は「よくわかっていない」というのが現状なようです。そもそも大腸の長さは個人差があるものなのですが、便秘は食べ物が大腸を通過する時間が長すぎることによっても引き起こされるので(大腸通過遅延型の便秘)、大腸が長いことが便秘発生のリスクになっていても不思議はありません。しかし、腸の長さと便秘の関係を指摘する研究がいくつもある一方で、これを否定する研究もあるようです注1。   したがって、日本人は腸が長いから便秘になりやすい」という説の検証結果は、こうです: そんなことはない。日本人の大腸が西洋人などと比較して特に長いということはなく、また大腸の長さと便秘の関係については諸説あってよくわかっていない。   いつか、この説の、歴史的なルーツについても、調べてみたいものです。  

    大腸の長さ:年齢や性別との関係 日本人の大腸の長さは、高年齢の人の方が長いという複数の研究があります注2。アメリカ人の腸の長さも高齢者の方が長いそうです注3。いずれの調査でも、長い理由が加齢による伸びなのか理由はわかりませんが、高齢になると腸の機能が衰えてくることと関係があっても不思議ではありません。男女別では、日本人の大腸の長さは女性の方が長いという複数の研究があります注2。アメリカ人では長さの男女差がほぼなかったそうです注3。男女の身長差を考えると、日米ともに女性の大腸の長さが目立ちます。部位別に測った研究では、女性は横行結腸(へその上あたりを右から左に走行している部分)が長いとの指摘があります注4

     

    ■日本人の大腸の形は、変?

     

    一方で、長さではなく、大腸の配置については、日本人のそれは教科書通りでない場合が多いという、経験に基づく指摘があります。

    多くのメディアにも出演されている独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターの水上健医師は、国内外での豊富な観察経験から、教科書にあるような腸管形態は西洋人にはあてはまるが日本人にはあてはまらず、日本人の大腸の多くには屈曲やねじれや落ち込みが見られると言われています(参照:久里浜医療センターWebサイト)。

    実は、個人的な話で恐縮なのですが、思い当たるエピソードが1つあります。私の伯父が欧州の外れの国・リトアニアに住んでいて、数年前に、大腸癌の手術を同国の首都・ヴィリニュスでうけました。残念ながら術後の合併症で腸の癒着がひどく、最終的に亡くなってしまったのですが、当時、開腹した現地医師が「見たことのない大腸の配置で、大変だった」というような感想を言ったと伝え聞きいています。私の伯父の腸にも、屈曲やねじれがあったのかもしれませんから、大腸の形態異常の話題は、人ごととは思えません。在ヴィリニュス日本大使館によるとリトアニアの在留邦人数は140名と少なく、もしかしたらヴィリニュスの医師は私たちの曲がりくねった大腸を見たことがなかったのかもしれません。

    現時点では、日本人の腸管形態異常に関する研究や分類はないようです。大腸が曲がりくねっていると便の通過が阻害され、便秘の原因になると考えられており、便秘解消をお手伝いしている私たちとしては、大変興味深く、研究の進展が待たれます。

    本ブログではこれからも、便秘に関連する体の雑学・トリビアを取り上げていきたいと思っています。

    (最終更新日:2022年5月1日)

    注1:日本消化器病学会関連研究会ほか編『慢性便秘診療ガイドライン 2017』南江堂 2017年 p.11~12 注2:永田 浩一ほか 日本人とアメリカ人の大腸の長さは違うのか?―大腸 3D-CT(仮想内視鏡)による 1,300 名の検討 日本消化器内視鏡学会雑誌 55(3), 435-444, 2013-03-20 や、山崎震一ほか 日本人大腸の長 さと内径に関す るX線 学的検討 日本大腸肛 門病会誌 47 : 31-39, 1994 注3:永田ほか前掲書 注4:山崎ほか前掲書

      写真:まだ5月なのに、雨の日が増えてきました。だいぶ前、コロナ前に、仕事で富山に行ったときの、電車の窓ごしに眺めた雨の田園風景は、まるで印象派絵画の様に輪郭がにじんでいました。雨があたる会社の窓をみて、そんな風景を思い出しました。   ひとこと 最後までお読みいただきありがとうございます。 記事がお役に立ちましたら、SNSでもご共有いただけますと幸いです! 毒掃丸のお買い求めは全国のドラッグストア・通販サイトで。 見つからない場合は「毒掃丸をください」と申し出てください。 こちら(SHOPどくそうがん)でも販売しております→ショップどくそうがん | 便秘薬の毒掃丸 山崎帝國堂のネットショップ (dokusougan.jp)

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  • 世の中に、自分が便秘だと自覚している人は、いったいどのくらいいるのでしょうか?それは老若男女どんな人たちで、どの程度ひどい便秘なのでしょうか。また、最近便秘は増えているのか、減っているのでしょうか? 日ごろあまり接することのない情報かと思いますが、今回はそうしたニッポン人の便秘事情が分かるようなデータをいくつかご紹介してみます。

    ■国民生活基礎調査にみる便秘

      まず最初に、国民生活基礎調査という国の大規模な調査から数字を抜き出して、2つの観点からニッポン人の便秘事情をみたいと思います。この調査は、現在我が国で行われている53の基幹統計の一つで、統計法に基づき厚生労働省によって実施されています。保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査するかなりカバー範囲が広い調査であり、内容を絞った小規模な調査が毎年、フルスペックの大規模な調査が3年ごとに行われています。大規模調査の年には、調査対象は最大70万人にもおよび、対象の抽出方法や調査方法も統計学的にちゃんと設計されているからでしょう、調査の結果は政策以外にも広く活用されています。 国民生活基礎調査|厚生労働省 (mhlw.go.jp) まず、この3年ごとの大規模調査から、性・年齢ごとの便秘訴求者数を見ることができます。     縦軸が便秘の悩みを訴える人が1000人中何人いるかで、横軸が年齢、赤い棒が女性で、青い棒は男性です。1000人中の有訴者数が少なく見えるのは、複数回答可とは言え43もの症状(体がだるい、眠れない、耳鳴りがする、等々)から選ぶからだと思います。ここで便秘を選んだ人は、おそらく自分が便秘持ちであると強く自覚している人たちなのでしょう。 グラフから解るのは、(1)女性の方が男性より便秘に悩んでいること、(2)高齢になると便秘に悩む人がぐっと増える、の2点ですが、これは皆さんの感覚と一致しませんか? 女性は、筋肉量・骨盤の形・黄体ホルモンの影響など、便秘になりやすい要素が男性より多いのです。また、加齢は、腸の動きが衰えることや、食事量の減少、腸内細菌叢の変化など便秘の要因になります。80歳代になると、ほぼ男女の差がなくなるのが印象的です。当社にも、高齢男性からの便秘の相談は大変多いです。
    便秘の有訴者数の推移
    便秘の有訴者数の推移 1998年から2019年まで 国民生活基礎調査より
    グラフ:厚労省 国民生活基礎調査 1998~2019より作成 また、この調査は長期にわたり比較可能であるという利点があります。グラフは、この20年間で便秘に悩む人が減っていないことを示しています。しばらく前から乳酸菌入り食品の市場は爆発的に増加しており、巷では腸活ブームです。生活態度も以前より健康的になってきていると思うのですが、便秘に悩む人はなかなか減りません。年齢別に細かく見ると、実は多少の変化は見られ、中高年層の便秘有訴者数減少を、高齢者自体の人数が増えている影響が相殺している(若い人の便秘は増減が見られない)のですが、ちょっと細かい話なので今日は深入りしません。便秘は意外と長く付き合わなければならない人が多い症状なのです。  

    ■研究論文にみる、日本人の便秘の認識と排便頻度

      つづいて、5155人の日本人を対象にしたインターネット調査に基づく研究論文から、興味深い数字を2つご紹介します。 Prevalence and Self-recognition of Chronic Constipation: Results of an Internet Survey (nih.gov) Tamura A, Tomita T, Oshima T, Toyoshima F, Yamasaki T, Okugawa T, et al.  J Neurogastroenterol Motil. 2016; 22(4): 677-84 「日本人における便秘に対する認識と頻度」というのが日本語題なのですが、この調査によると、日本人の28.4%が、自分を便秘だと認識しているそうです。男女別にわけると男性の19.1%、女性の37.5%が自分を便秘だと認識しています。なかなかリアルな結果です。 この研究では、実に興味深いことに、同じ人たちに週の排便頻度も聞いています。結果は次の通りです。 8回以上  25.0% 3から7回 66.6% 0から2回  8.4% 平均排便回数 6.9回 平均すると、毎日1度出ているんですね。一方で、週に0から2回しか排便できていない人が8.4%もいらっしゃるというのは、驚きです。これまでの当社のデプス調査と呼ばれる消費者調査(少人数にプロが長時間インタビューする調査)で、便秘は自分にとっては深刻な悩みであると言われる方が何人もいらっしゃいましたが、それも納得です。  

    ■まとめ

      以上2つのデータから見えるニッポン人の便秘事情をまとめてみます。 ・便秘に悩むのは女性が多いが、高齢になると男女ともである ・この20年で、日本において、便秘に悩む方の数は減っていないようだ ・日本人の約3割の方が自分を便秘と認識している(という調査がある) ・日本人の約1割は、週に0から2回程度の排便しかできていない(という調査がある) 便秘を完全におこらなくする方法は、残念ながら今のところ見出されていません。でも、生活習慣や食生活の改善など、日々の便秘に対処する方法はたくさんあります。また、正しく服用すれば、市販の便秘薬も頼もしい助っ人になります。肝心なことは、便秘を悪化させることを避け、上手に便秘に対処しながら、便秘を気にしすぎることなく日常生活を楽しく送っていくことだと思います。   関連リンク:「女性の便秘・男性の便秘 ~年代による、その変化と対策~」   (最終更新日:2022年12月15日)   写真説明:会社の食堂から、敷地内の桜がきれいだったので写しました。木々の新緑が美しい季節になりましたが、ヒンヤリした朝の風に、一瞬、桜の花が咲く時期のことを思い出しました。   ひとこと 最後までお読みいただきありがとうございます。今後、記事がお役に立ちましたら、SNSでもご共有いただけますと幸いです! 毒掃丸のお買い求めは全国のドラッグストア・通販サイトで。見つからない場合は「毒掃丸をください」と申し出てください。こちら(SHOPどくそうがん)でも販売しております→ショップどくそうがん | 便秘薬の毒掃丸 山崎帝國堂のネットショップ (dokusougan.jp)

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