「腸活」とは一般に、腸内環境を整えたり腸の働きをよくすることで、便秘を改善したり、より健康な全身状態を目指したりすることを指します。便秘は生活の質(QOL)を低下させますし注1、最近では、腸内環境が肥満や神経伝達物質のバランスにも関係しているのではないかとの指摘注2が注目さみてれています。腸内環境や腸の調子を整える腸活は、健康のために重要です。今回から3回シリーズで、この腸活についてみていきたいと思います。今回は腸活の大切さや分類などの全般を概観し、各論として、次回は「食べる腸活」、その次は「食べる以外の腸活」についてお話します。
目次
「腸活」という言葉は割と新しく、「婚活」や「終活」と同じ「〇活」族のひとつです。「〇活」という言葉は、前向きかつ包括的で便利だからか好感度が高いようで、文化庁の「令和元年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」によると、「〇活」のような言い方を他人が言うのが気にならないと答えた人の割合は90%にのぼるそうです。2文字でイメージが膨らむ、わかりやすいネーミングですね。この2文字の裏には、とても幅広くて奥が深い世界が広がっています。
腸活の目的は、だいたい次の3つに絞られます。
(1)便通を改善する
(2)腸内環境自体を改善する
(3)以上の結果としての、ダイエット、長寿、美容など
(1)の便通の改善は、いわゆる便秘解消・便秘改善です。日本人の約3割の人が便秘に悩んでいて、その中の約1割は、週に0回から2回しか排便ができていないという報告があります注3。便秘に悩む人は多く、人によっては大変深刻にとらえられています。便通の改善は、腸活の主要テーマです。(2)の腸内環境の改善は以前にもまして脚光を浴びてきている考え方です。腸内の環境を整えてあげることは、健康維持や便秘の改善・解消のために大切です。私たちの腸の中には、約100兆個もの細菌(腸内細菌)がいて、その状態は、健康と密接に関係しています。腸内環境を改善するような食材や、ヨーグルトなどの加工食品の人気は、高まっています。
関連リンク:ブログ記事「ニッポン人の便秘事情を俯瞰する」
(3)になると、やや高次な目的で、あまり短期的で明確な成果は期待しないほうが無難かもしれません。ただ、腸活を一生懸命実行しているうちに、だいたい半年くらいで食の好み全般や生活リズムが今より健康的なものに変わってくるはずです。そうすると美容健康上の様々な好影響が大いにみられるでしょう。
腸内環境と肥満の関係についてはまだわからない点が多いのですが、肥満の人は腸内細菌の多様性が失われていると考えられています注4。また、腸に良いヘルシーな食材(食物繊維やオートミール)を好む人たちにはスリムな人が多いという調査報告があります注5。腸活で腸内環境を改善すること自体が一種のダイエットといえるかもしれません。
また、便秘は生活の質を下げるだけでなく、寿命を縮めるという指摘が複数ありますので注6、便秘改善は長寿にも寄与すると思われます。更に、腸によい食物繊維の摂取が、長期の総死亡率を2割近く下げるという長期にわたる大規模追跡調査の報告もあります注7。腸活は、気長に続ければ、ダイエットや健康増進・長寿につながる可能性を秘めているといえるでしょう。
美容については、医学的なエビデンスは見つかりませんが、生き生きと腸活をしている人は、生活の質も高く、見た目も健康的なことでしょう。例えば、便秘で張ったお腹や、お腹周りの筋肉の衰えは、ぽっこりお腹の原因です。腸内環境の改善や運動といった腸活でこれらを改善すれば、ぱっと見の印象まで変わってきます。
関連リンク:ブログ記事「便秘と寿命」/「便秘と野菜の話」/「ぽっこりお腹と便秘」
腸活のアプローチを大まかにわけると、2つに分類できます。
まず、「食べる腸活」とはどういう活動なのでしょうか。広く知られているように、腸の中にはおよそ100兆個もの細菌がいて、私たちの体はそのうち善玉菌と呼ばれている菌に助けられながら生きています(乳酸菌やビフィズス菌は、善玉菌の代表格です)。善玉菌は、その代謝物で腸の動きを高め、また有害な菌の働きを抑えることで、便通を良くしたり、便の状態を改善したりしてくれます。この善玉菌を増やしてあげるために、食べるものに工夫を凝らすことが、「食べる腸活」です。腸によいとされるヨーグルトなどの加工食品や、食材を積極的に摂るようにします。
関連リンク:「腸内細菌と、健康・便秘」/「便秘によい食べ物」
「食べる以外の腸活」は、主に腸の動きを助けてあげるような腸活で、腸内環境の改善というよりは、より便秘改善に比重を置いた活動です。腸内環境が整っても、腸が正常に動かなければ、快便や健康な毎日は望めません。
もうすこし詳しく方法論を分解してみます。
(1)善玉菌を食す
(2)善玉菌のエサになるものを食す
(3)善玉菌が作り出すのと同じ良い物質を食す
人間は、生まれた時には、腸内に細菌を持っていません。生後間もなく母親から細菌を受け継ぎ、その後、食事や環境との接触を通じて徐々に善玉菌を含む安定した腸内フローラを作り上げていきます。(1)から(3)の方法は、その営みを意図的に補完しようとしているわけです。これらは、腸活の中核なので、次会に詳しく触れてみたいと思います。
(1)の善玉菌を食すとは、ヨーグルトを食べることや、乳酸菌・ビフィズス菌含有食品、サプリメント、あるいは整腸薬を摂ることです。腸活ブーム以前からある方法なのでエビデンスも豊富で、生きた善玉菌(プロバイオティクスとも言います)を食すことについては、排便回数の増加や腸管通過時間の短縮が認められるとして、慢性便秘の治療法の1つとしても推奨されています(「慢性便秘症治療ガイドライン」2017 南江堂)。
近年、善玉菌は免疫力を整えるのではないかと注目されています。腸は善玉菌だけでなく、大腸菌や口から入ってきた病原菌など様々な微生物にさらされますから、腸管には免疫機能にかかわる細胞が多く集まっています。この免疫細胞たちは、腸内の一部の細菌と共生しながら体を守ってくれています。ヨーグルトに用いられる様々な種類の善玉菌が、体の免疫全般を整えてくれるという調査結果も数多く出され、巷にはこうした菌が入った乳酸菌飲料があふれています。今や、ヨーグルトが「食べる腸活」のメインストリームになっているように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
善玉菌を増やしてくれる方法は他にもあります。(2)(3)にあるように、善玉菌そのものを食べなくても、発酵食品・オリゴ糖・食物繊維といった食品を食べることで、腸内環境を改善し、便秘も改善することができます。第2回では、食べる腸活(=腸によい食生活)について、食品ごとに分けてご説明します。
大腸の働きは、自分の意思でコントロールすることができません。そのため、適切な刺激をあたえることで、働きをサポートしてあげよう― それが食べる以外の腸活に共通した考え方です。自律神経の乱れをとる、朝コップ1杯の水を飲む、マッサージ、有酸素運動や筋トレ等、腸を動かすための魅力的な方法がたくさんあります。これらは第3回でご説明したいと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
便秘は様々な原因で引き起こされるので、実は腸活だけで便秘が解消されるとは限りません。なので便秘に悩んでいる方の中には、腸活で便秘が改善せず期待外れに感じてしまう人がいるかもしれません。しかし、便秘が完全に治らなかったとしても、腸活は腸内環境が悪化しがちな便秘の人にこそ、実行してほしい、便秘薬メーカーとしてはそんな風にも思います。今後、腸内細菌についての研究はさらに進むとみられ、健康維持の重要課題として腸活の実践がこれまで以上に注目されてくるでしょう。
腸活の具体的なアクティビティを解説する、次回以降の構成は、以下の通りです。クリックすると各項目に直接飛ぶことができます。
関連リンク:ブログ記事「腸内環境と便秘 ① 腸内フローラ/ヨーグルト」/「腸内環境と便秘 ② 発酵食品やオリゴ糖、食物繊維、整腸薬の活用」/「便秘と運動」
(最終更新日:2022年4月23日)
注1:Sun, S.X. et al, Impact of chronic constipation on health-related quality of life, work productivity, and healthcare resource use: an analysis of the National Health and Wellness Survey, Dig Dis Sci., 2011 Sep;56(9):2688-95. 注2:Peter J Turnbaugh et al, An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. Nature, 2006 Dec 21;444(7122):1027-31. や、Matsumoto M, et al., Cerebral low-molecular metabolites influenced by intestinal microbiota: a pilot study. Front Syst Neurosci. 2013 Apr 23;7:9. 注3:Tamura A, et al.Prevalence and Self-recognition of Chronic Constipation: Results of an Internet Survey. J Neurogastroenterol Motil. 2016; 22(4): 677-84. 注4:入江 潤一郎ほか, 腸内細菌叢と肥満症, 日内会誌 104 : 703~709, 2015. 注5:食物繊維と肥満の関係については、例えば Kuijsten, A et al., Dietary fibre and incidence of type 2 diabetes in eight European countries: the EPIC-InterAct Study and a meta-analysis of prospective studies. Diabetlogia. 2015 Jul;58(7):1394-408./ オートミールについては、Victor L Fulgoni 3rd, et. al., Oatmeal consumption is associated with better diet quality and lower body mass index in adults: the National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES), 2001-2010, Nutr Res. 2015 Dec;35(12):1052-9. 注6:例えば、Joseph Y Chang, et al. Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community. Am J Gastroenterol. 2010 Apr;105(4):822-32. や Kenji Honkura, et al. Defecation frequency and cardiovascular disease mortality in Japan: The Ohsaki cohort study. Atherosclerosis. 2016 Mar;246:251-6. 注7:Park Y, et al., Dietary fiber intake and mortality in the NIH-AARP diet and health study. Arch Intern Med. 2011 Jun 27;171(12):1061-8. アメリカでの9年間の追跡調査で、食物繊維の摂取は、男女両方における総死亡率低下と有意な関連を示した(男性 0.78(95% CI:0.73~0.82;p<0.001)、女性 0.78(95%CI:0.73~0.85;p<0.001))。 et al., Dietary fiber intake and total and cause-specific mortality: the Japan Public Health Center-based prospective study, Am. J. Clin. Nutr., 111(5), May 2020, 1027–1035 日本での18~21年の追跡調査で、食物繊維の摂取量が最も多いグループでは、最も少ないグループに比べ、総死亡リスクが男性で23%、女性で18%、それぞれ低下した。
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