便秘に悩みながら毎日の生活を送る人はとても多くいますが、普通は数日から長くても1週間くらいで排便があり、つらい思いをしたとしても、ほとんどの場合、生命に影響が及ぶような事態にはなりません注1.注2。 また、お医者様にかかるような場合も、便秘はほぼ内科的に治療が可能で比較的予後が良く、手術を必要とする症例は少ないと考えられています注3。 しかしながら、長期的にみると、慢性の便秘には死亡リスクの増加があり、寿命に影響をあたえているのではないかという気になる指摘があります。今回は、便秘の死亡リスクにまつわる2つの研究をご紹介します。また、すぐに受診をしたほうがよい、命に係わる危険な便秘についても簡単に触れたいと思います。
アメリカ・ミネソタ州の住民を対象行われた、あるコホート研究では、機能性胃腸障害(慢性便秘、消化不良、過敏性腸症候群、腹痛、慢性下痢)をもっている約4,000人の成人を追跡調査し、それぞれの障害の有無が10年後の生存率にどの程度影響するかを統計的に解析しました。解析の過程では、他の重大な疾患が原因でそれらの機能性胃腸障害がおきたことが分かった被験者は除外していますから、例えば癌が原因で便秘になっていたなどというケースは含まれません。
結果は、興味深いものでした。それら機能性胃腸障害のうち、慢性便秘だけが生存率に影響を及ぼしていることが示唆されたのです。慢性便秘でない被験者の10年後の生存率が平均で85%だったのに対し、慢性便秘の被験者は73%で、12%の差がありました(消化不良、過敏性腸症候群、腹痛、慢性下痢については生存率の大きな低下は見られませんでした)。年齢・性別・喫煙・飲酒・教育レベル・併存疾患について統計的に調整をしたあとでも、慢性便秘の人々の生存率は低いままでした。なお、慢性便秘の被験者に大腸など消化管の癌が増えたということは、ありませんでした。
論文はこちら→ Joseph Y Chang, et al. Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community. Am J Gastroenterol. 2010 Apr;105(4):822-32.
著者らは、慢性便秘がなぜ10年後の生存率に影響を及ぼしたのかは不明で、さらなる調査が必要だと述べています。
宮崎県で国民健康保険加入者を対象に行われたコホート研究では、排便頻度と循環器系疾患による死亡との関係について検証が行われました。約45,000名を対象にし、排便頻度で被験者を「1日1回以上」「2~3日に1回」「4日に1回以下」3グループに分け、各グループの13年間の心血管疾患(循環器系疾患、脳血管疾患、虚血性心疾患)による死亡リスクを解析しました。
その結果、排便頻度が少ないグループほど、心血管疾患による死亡が多いことが分かったのです。「2~3日に1回」、「4日に1回以下」の各グループの全体的な心血管疾患死のリスクは「1日1回以上」グループと比較して有意に高くいものでした。死亡するリスクの大きさを相対的に示すハザード比は「2~3日に1回」が1.21、「4日に1回以下」が1.39でした。
論文はこちら→ Kenji Honkura, et al. Defecation frequency and cardiovascular disease mortality in Japan: The Ohsaki cohort study. Atherosclerosis. 2016 Mar;246:251-6.
関連リンク:「便秘と高血圧症」
この2つの研究を通してわかるのは、便秘と生存率の相関関係であり、その因果関係についてはよくわからないという点には注意が必要だと思います。
とはいえ、アメリカの報告の方では生存率に関係しそうな諸要素(性・年齢・既往症・喫煙や飲酒の習慣など)の影響を除外する調整を行っていますし、また日本の研究では同様の調整に加え、歩行時間や野菜や果物の摂取傾向についてまでも調整しています。この2つの調査をもってはっきりした関係があると決めつけることはできなくても、「リスクが高まる恐れはある」と考えるに越したことはないかもしれません。
例えば、便秘が大腸癌発生のリスクになるかどうかについては、いまだによく分かっていないのですが、これについては「Yes」を示唆する研究結果と「No」を示唆する研究結果がどちらも沢山存在しています。注3 一方で、死亡リスクについては、便秘が死亡リスクを高めるという研究はこれ以外にもありますが、便秘が寿命を延ばすという研究結果は、少なくとも私たちは、まだ見たことがありません。
注意!危険な便秘について
便秘にも、稀に重篤化するケースがあります。腸の中で大量の便がカチカチに固まってしまうと、腸がふさがってしまい(腸閉塞)、敗血症・腸穿孔・腹膜炎などの重篤な状態をもたらすことがあります。例えば腸穿孔といって腸に穴が開いてしまうと、人工肛門になったり、命を落としてしまうこともあります。こうしたケースは稀ですが、便秘が続くうえに、激しい腹痛や吐き気・嘔吐がある場合は、早急に受診するようにしてください。
やはり、できるだけ便秘解消や便秘予防につとめたほうが良いでしょう。ただし、長期的なリスクを下げることを目的に市販の便秘薬を飲むのは、薬には副作用があることを無視した誤った発想だと思います。一番良くないのは、便秘であることを気にすることもなく乱れた生活を続け、強い便秘薬をたくさん飲んで出すような日々を送ることです。また、便秘であることを気にして憂鬱になっていては、毎日がつまらないものになってしまいます。
まずは腸活にとりくみ、「快食快便」をゴールに楽しく便秘解消や便秘予防に取り組むのが、一番よいと思います。本ブログでは、腸活について様々な記事がありますので、ぜひご参照ください。また、市販の便秘薬を使うとすれば、生活改善などで便が出なかったときに、頓服用に賢く使うのが理想です。できるだけ服用量を調節しやすい便秘薬を選び、自然に近いお通じを目指しましょう。そして、思い悩んだ時には、薬剤師(当社のお客様相談窓口も薬剤師・登録販売者常駐です)や医師に相談するようにしてください。
関連リンク:ブログ記事「便秘薬をのむ時に大切なこと」
(最終更新日:2022年12月15日)
注1:きわめて重度の便秘は、最終的に腸管が破れてしまったり、敗血症をおこしてしまって死に至る場合があります。 注2:普通の便秘にみえても、急に便秘症になった場合や血便がみられる場合は、他の重大な疾患が隠れていることもありますので、気になる方はお医者様に診てもらうようにしてください。 注3:参考文献:日本消化器病学会関連研究会ほか編『慢性便秘診療ガイドライン 2017』南江堂 2017年
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