腹部のマッサージは、誰にでも簡単にできる、最も手軽な便秘対策の1つです。もちろん、マッサージをすれば「誰でも、すぐに排便がある」というわけではありません。しかし、マッサージの便秘改善効果はある程度実証されており、試してみる価値があります。今回は、なぜマッサージで便秘解消が期待できるのかを解説したうえで、代表的なマッサージ方法をご紹介したいと思います。
目次
便秘には、様々な原因がありますが、原因の1つとして、大腸の動きが悪くなることが挙げられます。
胃と小腸で消化された食べ物は、消化液や大量の水分とともに、ドロドロの状態で大腸へと運ばれてきます。大腸は、成人で1.5m程度の長さがある管状の臓器で、主に水分を吸収する働きがあります。大腸で、消化後の内容物から徐々に水分を吸収して固形状にしながら、ゆっくりと肛門の方へと運ばれていきます。肛門の方に運ばれてきた固形状になった内容物が、便です。
関連リンク:「うんちと便秘」
まず、大腸がどのようにして内容物(消化済みの食べ物)を肛門の方に運んでいくのかを見てみましょう。大腸に内容物入ってくると、大腸内の神経がそれを感知し、反射的に大腸の収縮を促します。その収縮が先へ先へと順に伝わっていく「蠕動運動(ぜんどううんどう)」と呼ばれる動きによって、内容物は肛門側へ移動していきます。この大腸の蠕動運動がちょうどよく行われていると、適度な硬さの便が期待できます。蠕動運動が低下すると、内容物が停滞したまま大腸による水分の吸収が進むため、便が固くなり、便秘になってしまいます。
蠕動運動は、様々な理由で停滞してしまうことが知られています。例えば、女性ホルモンの1つであるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、大腸の蠕動運動を抑制してしまいます。そのため、プロゲステロンが多く分泌される思春期から壮年期までの間、便秘は男性より女性にずっと多くみられるのです注1。また、加齢も蠕動運動を停滞させます。海外からの報告によると、高齢者16人(平均81歳)と若者16人(平均24歳)の大腸通過時間を調べたところ、高齢者は平均66時間、若者は平均39時間で、1.7倍の差があったといいます注2。加齢による蠕動運動低下の理由は、腸管の運動に関係する神経細胞の数やバランスが、加齢とともに変化するからだと考えられています注3。
関連リンク:「女性の便秘・男性の便秘 ~年代による、その変化と対策~」/「高齢者の便秘」/「便秘の種類と原因」
また、ストレスにより蠕動運動が起こりにくくなることもあります。大腸の蠕動運動が、大腸内の神経の働きで反射的に起きていることは、すでに触れたとおりなのですが、その他に、脳から背骨を通って大腸まで届いている「自律神経」という神経系も、蠕動運動の活発さの度合いを調整しています。この自律神経というのは、生命維持の様々なプロセスを調節するために体中に張り巡らされた神経で、意識しなくても自動的(自律的)に機能するのが特徴です。私たちは、緊張すると心拍が早くなり、リラックスすると心拍が遅くなったりしますが、これは、自律神経によって心臓の活発さが調節された結果です。大腸の動きは、心拍とは逆で、緊張すると蠕動運動が抑制されて排便が減り、リラックスすると動きが活発になって排便が促されます。そのため、ストレスなどで緊張状態が続くと、便秘になってしまうことがあります。
関連リンク:「便秘とストレスの関係」
このように、女性ホルモンや、加齢の影響、ストレスによる自律神経の乱れなどは、大腸の動きを抑制し、便秘を引き起こしてしまいます。
腹部のマッサージは、前項で挙げたような、大腸の動きが悪くなったことによる便秘を改善してくます。まず、マッサージで体の外側からを大腸に刺激を与えることで、蠕動運動が活発になると一般的に考えられています。大腸の蠕動運動は、食べ物が入ってきたことを腸内の神経が感知することで反射的に起こるのですから、押すことで、食べ物をよりはっきり感知してもらおう、そんな発想です。また、腸の内容物の進行方向に向かってマッサージすることで、大腸の運動を補うことも期待しています。
更に、マッサージによるリラックス効果は、自律神経の調子を整え、ストレスなどによる緊張状態が引き起こしていた便秘を改善しれくれると考えれらています。マッサージの際の手の温感や触感、筋肉の緊張のほぐれによる心地よさは、心身をリラックスさせてくれ、腸の動きを促してくれる「副交感神経」という自律神経の働きを高めてくれます。これにより、自律神経のバランスが整い、蠕動運動がおこりやすくなります。
実際に、腹部のマッサージの便秘改善効果は観察されていて、例えば、1日15分・週5回の腹部マッサージを8週間続けたところ、便秘が改善されたという海外からの報告があります注4。
体を温める「温罨法(おんあんぽう)」とは?
一般の方には聞きなれない言葉かもしれませんが、体の一部を温めることで刺激を与え、体や心の状態を改善する看護技術のことを、温罨法といいます。温罨法には、血行促進や痛みの緩和等様々な効果があり、便秘改善にも良いことが分かっています。具体的には、例えば、横になった状態で、60℃程度のお湯で絞った蒸しタオルなどをお腹や腰の下に10分程度あてます。これを連日続けることで、便秘の改善が期待できます注5。便秘が改善する理由としては、温めることで体がリラックスし、自律神経のうち、腸の動きを促進する働きがある副交感神経が高まっていることが挙げられます注6。温罨法自体は、温度管理ややけど防止に知識が必要な専門技術であり、一般人にはできませんが、温めることの有用性は参考になります。やけどしないように注意しながら市販のカイロを腰に貼ったり、湯たんぽを抱くなどを、マッサージと合わせて行ってみてはいかがでしょうか。
話は少しそれますが、当社の独自の調査をみると、便秘改善のために実際にお腹のマッサージをしている人は、かなり多いようです。便秘の症状を経験したことのある人を対象に、これまでやってみたことのある便秘対策を聞いてみたところ、4割近い人が「マッサージの実施」を挙げています(下表)。思い立ったらすぐにできる手軽さが受けているのでしょう。
皆さんの便秘解消法
Q : あなたが、便秘の対応策としてこれまでにやってみたことがあるものをすべてお答えください。 | 全体 | 男性 | 女性 |
食生活の改善 | 62% | 54% | 67% |
市販の便秘薬を利用 | 50% | 39% | 53% |
運動の実施 | 43% | 44% | 42% |
マッサージなどの実施 | 38% | 20% | 48% |
健康食品・サプリメントを利用 | 29% | 23% | 33% |
特に対策をしたことはない | 12% | 18% | 8% |
医療機関へ通院 | 6% | 6% | 6% |
その他 | 2% | 2% | 13% |
2018年当社調べ N=8529 現在か過去に便秘の症状を経験した人を対象にした調査
関連リンク:「便秘による不調とは ~便秘に伴う諸症状の話~」
続いて、便秘によいマッサージの具体的な方法を3つご紹介します注7。いずれも、自分ひとりでできる方法です。
のの字マッサージと呼ばれる、代表的な腹部マッサージです。大腸がある場所を、盲腸(右下)からS字結腸(左下)に向けて、ゆっくり何度もマッサージします。お腹でいうと、おへそ付近を起点に、右鼠径部の上から、右肋骨の下に向けてもみ上げ、そのまま左肋骨の下を経由して、左鼠径部の上のあたりまで「の」の字を描くように移動していきます。
「腸もみ」とも呼ばれる方法です。両脇腹は、腰骨や肋骨に邪魔をされることがないので、大腸を前後から包み込むようにもみあげることも可能です。上下にマッサージしたり、前後から包み込むようにもんだり、大腸の四隅をもむなどの方法がありますから、やってみて気持ちよのよい方法を探してみてください。
横行結腸とは、大腸のうち、おへそのあたりを右から左に横切るように走っている部分のことです。この部分の大腸は、お腹の中で固定されておらず、真ん中が垂れ下がるようになっています。人によっては内容物の通りが悪くなっている可能性があるので、下腹部から手で押し上げて刺激します。
その他にも、上体をねじることで腸を刺激する方法(立ったままでも、寝た状態でも可)や、仰向けになって膝を抱え、腹部を圧迫することで大腸を刺激する方法もあります。また、高齢者などで自ら動くことが難しい方は、腹式呼吸を繰り返すだけでも、大腸への刺激やリラックス効果が期待できます。
腹部マッサージは、誰でも必ず排便に至るという技法ではありませんし、たとえ施術で大腸が動きはじめても、すぐには便意につながらないことから、即効性も感じられないかもしれません。あまり効果が感じられなければ、食事内容の工夫や、運動などと合わせて行うようにしましょう。
関連リンク:「便秘対策の即効性」/「便秘によい食べ物」/「便秘と運動」
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便秘薬を飲むほどでもないという場合は、整腸薬で腸内環境を整えてあげるのもおすすめです。毒掃丸整腸薬は、乳酸菌と消化酵素と4種類の生薬を配合した、シナモンのような爽やかな香りがする、のみやすい整腸薬です。ぜひ一度お試しください。関連リンク:毒掃丸整腸薬の製品案内/毒掃丸整腸薬の無料サンプルお申し込みフォーム
注1:例えば、令和元年国民生活基礎調査の便秘有訴者数(全国・5歳階級・男女別・症状は複数回答)と、令和元年総務省人口推計(全国・5歳階級・男女別)から計算すると、10~59歳の便秘有訴者数の男女比は、男23%に対し、女77%である。なお、10歳~15歳の人を成人期に入れたのは、便秘に関係が深い女性の初潮が12.3歳±1.3歳(平均年齢±SD)であることと、元の統計が5歳刻みであることから、成人期の便秘の特徴を捉えるためにより適切だと考えたため。注2:Jan L. Madsen, Jesper Graff, Effects of ageing on gastrointestinal motor function, Age and Ageing, 2004 March ; Volume 33, Issue 2 : p.154–159. 注3:日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 編, 慢性便秘症診療ガイドライン2017, 南江堂, 2017, p.31. 注4:Kristina Lämås, et. al., Effects of abdominal massage in management of constipation—A randomized controlled trial, International Journal of Nursing Studies, 2009; 46(6): p. 759-767. 注5: 日本看護技術学会 技術研究成果検討委員会 温罨法班、便秘症状の緩和のための温罨法 Q&A、2021年2月、一般社団法人日本看護技術学会 注6:江上千代美他, 温罨法が末梢と心臓の自律神経系に及ぼす効果, 日本看護技術学会誌, 2014; Vol. 12(3): p.34-39. 注7:ここで挙げる3つは、次の文献で紹介されていた種目であるが、もみ方の詳細は当社の文責によるもの:高野正太, 慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法, 日本大腸肛門病会誌, 2019; 72: p.621-627.
ひとこと
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