おならは、正常な生理現象です。とはいえ、社会生活をしていく上で、不用意にくさいおならが出てしまわない様に多少の我慢が必要ですし、頻繁にしたくなるような日には特に気になるもの。今回は、そんなおならの正体、組成の話、食生活や便秘などくさいニオイの原因、そして、生活の上でとれる対処法について見てみたいと思います。その中で、気になる大腸癌や、女性の生理との関係にもふれてみます。
目次
おならは、成人だと1日平均で回数は5~20回程度、量は0.5~1.5ℓ程度しているといわれています。いったいそのおならの実態は何で、どんな仕組みで発生するのでしょうか?まず最初に、おならとは何で、どこからやってくるのかを知っておきましょう。
おならは、腸管の中にあるガスが大腸を経て肛門から出てきたものです。ヒトの腸管の中には、最大200ml程度のガス(腸管ガス)があり、これが腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)で順次下へと運ばれ、おならになります。腸管ガスの成分は、99%以上が水素、酸素、メタン、二酸化炭素、窒素でなど無臭の気体であり、その組成比は体外の空気とだいぶ違います。また、これらのガスの割合や組み合わせは個人差がとても大きいです。そして、残りの1%未満はさまざまな臭気ガスで構成されていて、これがあの様々なニオイをもたらします(詳細後述)。
腸管ガスの組成は胃から大腸に進むにつれて変化していきます。 ガスの由来は、飲み込まれた空気、腸管内生成(消化液の化学反応と細菌代謝)、および血流から腸内への拡散で、 出ていく方は、げっぷ、吸収、細菌の消費、肛門からの排出です。これらの要素がとても複雑にからみあって、食べ物と一緒に長い旅をする間にできあがった腸管ガスが、最後に肛門からおならとして排出されます注1。
では、おならはどこからくるのでしょうか? 2021年11月の時点で、大手企業のWebサイトをはじめ、おならの大半は口から飲み込んだ空気である、と書いてあるケースが多く見受けられます。しかしながら、海外の研究で、食事をしてしばらくすると大腸の後半あたりで特にガスの量が急増することもわってきており注3、最近では、おならの大半は大腸で食物の残滓が腸内細菌に分解されることで発生していると考えられるようになっています注4。
但し、呑気症(どんきしょう)という空気を沢山飲み込んでしまう病気の人たちを調査した国内の臨床統計をみてみると、呑気症の人たちが訴える気になる症状の第3位が排ガス(第1位は腹部膨満、第2位はげっぷ)となっていますので、口からの空気も、個人差はあるでしょうが、多かれ少なかれおならになっていると思われます注5。
先ほど腸管ガスの組成は人によって大きく異なると述べましたが、皆に共通している点もあります。それは、おならの中には酸素がほとんどないことです。大気中には酸素が21%含まれていますが、腸内のガスは、大腸に至るころには極端な低酸素状態になっていて、1960年代以後の主な研究データの平均値を計算した研究(メタアナリシス)によると、腸管ガス内の酸素含有率は、わずか2.3%です注2。
腸管に入った酸素は、少しずつ腸管から体内に吸収されます。また腸管上部の細菌のなかには酸素を消費するものもいるので、大腸に至るまでにその濃度はどんどん下がっていきます。皆さまも、腸内の細菌の中には人の役に立つ善玉菌がいるというのは聞いたことがあると思いますが、そうした善玉菌は酸素が苦手で、低酸素の大腸は棲息にピッタリの環境です。健康な大腸に沢山の善玉菌がいるのは、そこに酸素があまりないからなのです。
関連リンク:「腸内細菌と、健康・便秘」
ところで、腸管の酸素濃度が低くなると、血中の酸素が腸内に漏れ出しても不思議ではないのですが、この点について最近の研究で面白いことが分かってきました。一部の善玉菌が出す物質が、ヒトの大腸上皮の細胞を元気にさせ、血中からでてくる酸素の消費を促進させ、そのことが大腸内の酸素濃度の上昇を抑えているというのです注6。こうして善玉菌の生育環境が保たれているとは、健康な腸内環境を恒常的に保つための、見事な仕組みに感心させられます。
ということで、腸管ガスは極めて酸素が少ない状態で肛門にやってきます。もし、おならだけを集めた部屋をつくり、その中に人が入ったら、ひどく臭いだけでなく、酸素不足により窒息して死んでしまうかもしれません。
大腸の腸内細菌の営みで発生するガスには、無臭のものと、少量でも強いにおいをもつものがあることには、(1)で触れました。大雑把にいうと、食物繊維や炭水化物の分解ででるガスは無臭で、タンパク質や、ニンニクやニラのようなもともとニオイが強いような食べ物は、臭いガスの素になります。また、腸内環境の悪化や、便秘もおならが臭くなる原因になります。
食物繊維は大腸に棲む細菌によってしか処理されないため、食物繊維の多い食物(野菜、豆類、いも類など)を多く食べると、腸内細菌の活動が活発になり、ガスの量も多くなります。また、炭水化物も同様にして分解されます。おいもを食べるとおならが増えるといわれるのは、食物繊維や炭水化物を多く含むからです。これらの食品は、おならの量や回数が増える食材と言えます。
ただし、食物繊維や炭水化物を分解する腸内細菌は、いわゆる善玉菌や日和見菌(悪玉でも善玉でもない菌)と呼ばれている菌たちです。そして、分解するときに、水素やメタン、二酸化炭素といったガスが多量に発生し、腸管ガスとなります。これらのガスは、いずれも無臭です。腸活などで食物繊維を多く摂ったときにも、腸内細菌が活発になることでおならが増えることはありますが、おならの量や回数が多くても、ニオイが強くなく、お腹が張るなどの不快な症状がなければ特に心配はありません。炭水化物は主食ですし、食物繊維はとても体によく便秘改善にもつながる優れた栄養素ですので、おなが出るからといって摂取量を減らさないようにしたいものです。
タンパク質や、肉、ねぎ類・にんにく・にらといったニオイが強い(硫黄分が多い)食べ物を多く食べると、その残滓が大腸でウェルシュ菌などの悪玉菌によって分解され、その時に、硫化水素(卵の腐った臭い・H2S)、二酸化硫黄(マッチをすったときの臭い・SO2)、二硫化炭素(独特の不快臭・CS2)、インドール(大便臭・C8H7N)、スカトール(大便臭・C9H9N)などのガスが少量ながら発生します。これらのガスは、ニオイが強く、おならの臭さの素になってしまいます。そしてこれらのガスが増えれば増えるほど、おならのニオイは強くなります。タンパク質やニラなどの食品を摂りすぎた時、腸内環境の悪化で悪玉菌の数が増えた時、便秘などで便が長く腸内に留まった時には、そうしたガスが増えるので、おならのニオイが強くなります。
おならが臭いのは、大腸がんの初期症状?
大腸がんは早期の段階での自覚症状がほとんどなく、おならの臭い自体で大腸がんの疑いがあると判定することは、現時点ではできません注7。ただし、年を重ねると大腸がんになる可能性は高まりますし、腸内の善玉菌は年齢とともに減るため、おならのニオイも年を重ねるときつくなることが考えられます。気になる方は、健診の便潜血検査を定期的に受けたり、内視鏡検査を受けるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
女性の生理とおなら
生理前におならのニオイが気になる方がいらっしゃるようです。そのような時には、便通も悪くなっていませんか?月経前に分泌されるプロゲストロン(黄体ホルモン)は、腸の蠕動運動を抑制するため、生理前は便秘になりがちです。便秘により腸内での便の滞留時間が増えると、タンパク質やニオイが強い食べ物の分解も進みやすくなり、おならのニオイが強くなることが考えられます。気になるようでしたら、お肉やニンニクなどの、おならが臭くなりやすい食べ物を一時的に控えるなど工夫してみましょう(下の項の(2)参照)。
おならのニオイが特に気になるのは、締め切った室内です(検索トレンドを見ると1月がニオイが気になるピークのようです)。人間の嗅覚には閾値(いきち)といって「これ以下の濃度では感知できない」濃度が物質ごとに存在します。おならの臭いニオイの原因になる成分の閾値はいずれも低いので、皆様ご経験されているように、部屋の中であっても、風通しが良ければニオイ成分はすぐに拡散し、濃度が閾値を下回り、周りの人にバレにくくなります。
おならの正体とニオイの原因についてみてきましたが、では、私たちが生活上とられるおなら対策には、どのようなものがあるか、考えてみましょう。
まず、おならを不必要に腸内にためないようにしたいものです。おならが腸内にたまると、大腸の内圧が高まり、無理に引き延ばされたりして、激しい内臓痛が起こる場合があります。また、周辺臓器や神経も圧迫してしまいます。さらに、悪玉菌が生み出す臭いニオイの元の物質には、体に吸収されると有害なものがあります(本ブログ『便秘と「デトックス」①』もご参照ください)。また、臭いニオイ成分の硫化水素などが吸収しきれず残るので、後で出るおならは、より臭くなります。腸内にたまったおならは、有害物質とともに腸管から吸収されて血液中に溶け込み、全身へと運ばれます。血液中に溶け込んだおならは、皮膚や呼気から体外へ排出されますから、体臭や口臭がきつくなることもあります。最後に、お腹が張ってしまい、いわゆる「ぽっこりお腹」になってしまう点も見過ごせません。
結局、おならは不要なガスを排出するための正常な生理現象であり、なくなることはありませんし、溜めても良いことはありません。その昔、徳川家康に仕え、108歳まで生きたという天台宗の高僧・天海大僧正は、3代将軍家光に対し、折々おならをすることは長寿につながるとの下記のような養生訓を伝えています。
”長命は 粗食 正直 日湯(毎日の入浴) 陀羅尼(念仏) 折々ご下風(おなら) 遊ばさるべし”注8
「おなら」が古典に登場するのはいつから?
「おなら」は、「鳴らし」に「お」を付けた上で婉曲にしたコトバだといわれています。室町時代に使われるようになったと言われ、古くは鎌倉時代成立の「宇治拾遺物語」の中に、美しい女性が「いと高くならしてけり」場面の、じっくり読むと思わずクスッと笑ってしまう挿話があります。一方、「屁(へ)」の方はもっと古くから使われており、平安時代の漢和辞典「新撰字鏡」や辞書「和名抄(和名類聚抄)」には早くも屁の解説が登場しているそうです。
「おならのニオイについて」の項で、おならが臭くなる原因をみ挙げましたが、そうした原因を取り除いていけば、おならのニオイをおさえることができます。ニオイをおさせることができれば、我慢のし過ぎも減らせるのではないでしょうか。
大切な日の前などには、なるべくお肉やにら・ねぎなどの量を減らし、代わりに野菜などの食物繊維や、炭水化物を多く摂るようにしましょう。
関連記事:「野菜と便秘の話」
日ごろから腸活を心がけ、腸内の善玉菌を増やすように、ヨーグルト・オリゴ糖などを積極的に摂るようにしましょう。腸内環境を良くする活動のことを「腸活」と言いますが、本ブログでもたびたび取り上げてきましたので、是非ご参照ください。また、整腸薬を活用することも、一つの手段です。
◎腸内環境を改善するポイント
・自分に合ったヨーグルトを見つけて毎日食べる
(詳しくは「腸内環境と便秘 ①」)
・発酵食品を摂る
(詳しくは「腸内環境と便秘 ②」)
・オリゴ糖を摂る(同上)
・食物繊維を摂る(同上)
・市販の整腸薬を活用する(同上)
関連リンク:毒掃丸整腸薬の製品案内/毒掃丸整腸薬の無料サンプルお申し込みフォーム 毒掃丸整腸薬は、乳酸菌と消化酵素と4種類の生薬を配合した、シナモンのような爽やかな香りがする、のみやすい整腸薬です。
ストレスで緊張状態が続いたり、睡眠不足で生活リズムが乱れると、おならが増え、ニオイも強くなりやすいです。腸の動きは、自律神経である程度制御されており、リラックスしたとき(副交感神経が優位なとき)に腸が良く動くようにできています。そのため、自律神経のバランスが崩れて副交感神経の働きが弱くなると、腸の動きも悪くなり、内容物の通過に時間がかかってしまい、悪玉菌による内容物の分解が進みます。すると、おならが増えて、ニオイも強くなるのです。また、ストレスは便秘や下痢をもたらす場合もあります。ストレスをためないようにして、睡眠不足も避けるようにしましょう。
関連記事:「便秘とストレスの関係」
便秘になった場合も、腸内での便の滞留時間がぐっと長くなるので、悪玉菌による内容物の分解が長時間続き、おならが増え、臭いニオイがする物質の産出量も増えてしまいます。先にも述べた硫化水素(卵の腐った臭い)、二酸化硫黄(マッチをすったときの臭い)、二硫化炭素(独特の不快臭)、インドール(大便臭)、スカトール(大便臭)などが増えることで、おならはとても臭くなります。また、血中への有害成分の移行や、無臭のガスの産出増にもつながりますから、おなら対策として便秘の防止や解消は大切です。
便秘の防止や解消は、本ブログのメインテーマです。便秘解消の第一歩は、生活習慣の改善です。関連する記事は沢山ありますが、まずは下記をご覧いただけたらと思います。また、生活改善で便秘が解消できない時は、便秘薬・毒掃丸の使用も検討してみてください。
◎便秘を改善するポイント
・腸内環境を改善する(詳しくは「腸内環境と便秘 ①」/「腸内環境と便秘 ②」)
・朝食を食べる(詳しくは「便秘と便意」)
・朝起きてコップ一杯の水を飲む(詳しくは「便秘によい飲み物」)
・リラックスして自律神経を整える
・運動をする(詳しくは「便秘と運動」)
・お腹のマッサージをする(詳しくは「便秘とマッサージ」)
・市販の整腸薬や便秘薬を活用する
自分で便秘を改善する方法全般については、次の記事もご覧ください:「便秘解消を目指して ~便秘のセルフケア~」
関連リンク:複方毒掃丸ブランドサイト/おすすめの服用方法/複方毒掃丸の無料サンプルお申込みフォーム 複方毒掃丸は、6種類の生薬が自然に近いお通じを促す便秘薬です。小さな丸剤なのでのむ量を調節しやすく、ちょうどよいお通じを目指せます。複方毒掃丸に配合されている生薬・コウボクは、腹部膨満感も改善します。
以上、駆け足でおならについて見てきましたが、最後に注意点が1つあります。おなら自体は病気ではありませんが、異常におならが出続ける場合や、他の症状もみられる場合には、重大な病気が隠れていることもあります。そうした場合は、お医者様に相談するようにしてください。
(最終更新日:2023年7月30日)
注1:M. Montalto et al. Intestinal gas metabolism, Digestive and Liver Disease Supplements. 2009 ; Vol 3-2 : p27-29 注2:Andre Modesto et al, Meta-Analysis of the Composition of Human Intestinal Gases, Digestive Diseases and Sciences. 2021; https://doi.org/10.1007/s10620-021-07254-1 注3:F. Perez et al, Gas Distribution Within the Human Gut: Effect of Meals, Am J Gastroenterol. 2007 ; 102(4) : p842-9 注4:例えば、Jonathan Gotfried、ガスが関連する愁訴、MSDマニュアルプロフェッショナル版、最終査読/改訂年月 2020年 3月、注5:木村浩子、空気 嚥下症(い わゆる噛み しめ呑気症候群)と頭頸部不定愁訴 に関 する臨床統計的検討、日本歯科心身医学会雑誌. 2007 ; Vol22-2 : p73-83. 注6:Yael Litvak et al, Colonocyte metabolism shapes the gut microbiota, Science. 2018; 362(6418): eaat9076. 注7: 腸内のガス中のメタンチオール(腐った玉ねぎの臭いがする硫化物)の濃度と、大腸癌との関係を示唆する研究はある。例えば Ishibe, A. et al. Detection of gas components as a novel diagnostic method for colorectal cancer. Ann. Gastroenterol. Surg. 2018 ; vol.2 : p147–153 注8:参考サイト 東叡山寛永寺 10月のおはなし ~天海大僧正と德川家光公~ 2021年11月15日閲覧
写真説明:おならの臭いを想像させるのは本文だけで十分と考え、全く関係ない海の写真をタイトルバックに選んでみました。
ひとこと
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